「遺体写真を見てPTSDになった」という裁判員の訴えで完全に腰が引けた裁判所
裁判員裁判が始まったのは2009年5月21日のことです。当初は今のように刺激証拠をイラスト化するようなことはなく、真実究明のため厳正に行われていました。
ところが、2013年3月、裁判員を体験した女性が提訴した国賠訴訟をきっかけに、事態が一変したといいます。
60代のこの女性は、福島地裁郡山支部で開かれた強盗殺人事件で遺体のカラー写真を見てPTSD(心的外傷後ストレス障害)になったとして、慰謝料を請求したのです。この裁判自体は原告敗訴で確定しましたが、以来、裁判所が萎縮し、司法解剖の写真も含め、遺体の写真を証拠として採用しなくなったというのです。
被害者支援を数多く手掛け、今回のシンポジウムでパネリストをつとめた上谷さくら弁護士はこう訴えました。
「犯罪被害者にとって、最大の関心事は量刑です。特に被害者が亡くなった事件のご遺族は、死刑以外は受け入れられません。無期懲役になったとか、懲役20年、15年になったとき、『あの遺体の写真を見ていないからだ』と納得できないのはあたりまえです。
朝、行ってきますと元気にランドセルを背負って出て行った子どもが、数時間後、全身傷だらけで亡くなっている。顔も見ないでください、と言われたりする。大事な我が子の遺体と突然対面することが、どれだけの苦しみでしょうか。
それを、『事実認定は変わらないから』と、裁判員が写真で見ることもせず、逆にイラストだけで判断されたら胸が張り裂ける思いになるのは当然のことだと思うんです。被害者の方は、正しい証拠を見てもらって、正しく加害者を処罰してほしいという気持ちがとても強いのです」
シンポジウムの案内文には、今後の取り組みについてこう綴られていました。
『真実発見という刑事訴訟の精神を取り戻すため、刺激証拠であっても裁判員の心理的負担を理由とした排除を辞め、これを見たくない時は裁判員選任の正当な拒否事由としたり、刺激証拠を見せるときでも見せる方法を工夫したり、見た直後の心理的ケアを裁判官に義務付けたりするなどで裁判員に配慮する方向で、運用や制度の改正を目指します』
筆者のもとには、裁判員裁判で、イラスト化以前に血液が写っている写真全てが証拠採用されなかったという報告も来ています。そして、ご遺族は今も、判決結果を受け入れられず苦しみ続けておられます。制度の改正が急がれます。







