結局、被告人の「殺意」は否定され、16年の求刑に対し、判決は懲役10年というものでした。検察官が主張するような、ゴルフクラブで15回以上殴打したという事実や、娘の両手の損傷が防御創であることには疑いが残るとのことでした。

 でも、写真さえ見てもらっていれば、被告人が言っていることと傷の状況が合致しないことはすぐにわかったと思います。

 また、実際の写真で内出血の状況も見ずに、どうして防御創ではないなどと言えるのでしょうか。こんな悲しい結果を娘の仏壇に報告することは、非常に辛かったです。

 裁判長の職務とは何なのでしょう。自身と裁判員の保身が大前提なのでしょうか。被害者や被害者遺族の感情は後回しでよいのでしょうか。民意を反映させるための裁判員裁判ではないのでしょうか。少なくとも裁判官は、どんなにひどい犯罪でも目を通すべきです。そして裁判員には「見る、見ない」の選択権を与えるべきです。

 今後の裁判員裁判で私たちのように深く傷つけられる方がなくなることを願ってお話をさせていただきました。

モノクロにしただけでこんなにも印象が…

「ゴルフクラブで殴られ、亡くなられた娘さん、相当酷い傷を負われていたのでしょうね。それを見てももらえずに裁判が終わるなんて、どれほど悔しい思いをされたことでしょうか」

 そう語るのは、以下でレポートした「飲酒ひき逃げ事件」で、重傷を負った女性の母親・高橋美智代さん(仮名)です。

(参考)泥酔してひき逃げしたラウンジ嬢が法廷で「反省なき態度」、顔を傷だらけにされた24歳被害女性が悔しさで震わせた声(2025.9.26)

「うちの娘の加害者は、危険運転致傷の罪で起訴されました。当初、裁判員裁判になるかもしれないと言われ、ケガの写真は刺激証拠として却下されるかもしれないと不安でした。それなら、先にメディアで公開して、この苦しみを知ってもらおうと思ったんです。いくら裁判員が怖いとか、ショックを受けるといっても、被害者からすればこれが真実なんです」

 2枚の写真を比べてください。

(*編集部註:記事掲載当初、事故直後の被害者のケガの状態が分かるカラー写真と、それをモノクロ化した写真を掲載しておりましたが、都合により、事故から少し時間が経った、入院中の写真に差し替えさせていただきました。2025年11月25日15:35)

ひき逃げ事故の被害者・高橋琴さん(仮名)の受傷直後の顔面写真。直視するのがつらい写真ではあるが、事故の実態を如実に伝えてくれている
上の写真をモノクロにするとこうなる。だいぶ印象が違う

 これは、高橋さんの娘・琴さん(仮名)の受傷直後の写真です。

 モザイクをかけていますが、カラーとモノクロ、それぞれの写真が与える印象はいかがでしょう。この写真をイラストにしてみたのが下の画像です。被害の過酷さはもっと薄まるのではないでしょうか。

上記写真を筆者がイラストにしてみた。これでは被害の実態など分かりようもないと思うが、現在の裁判員裁判では、証拠写真がこの程度のイラストで代替されている(*編集部註:こちらのイラストはもともと掲載していた写真を元に描かれています)

「娘は命が助かったことで、当初はメディが全く取り合ってくれませんでした。でも、受傷直後の写真を記事に載せていただいた直後から、新聞やテレビが取材に来て、事故の酷さを一斉に取り上げてくれたんです。

ひき逃げ事故に遭い、病院で治療中の高橋琴さん(仮名)

 この写真を見てもらったことで、被害の深刻さが伝わったのだと思います。被害の真実を伝える大切な証拠を、裁判員に対する刺激が強いから見せられない? 自分の家族が被害に遭っても同じことが言えるのでしょうか。裁判官にはよく考えていただきたいです」(高橋さん)

同じく入院中の高橋琴さん