(写真:Kwangmoozaa/Shutterstock)
目次

交通事故の瞬間を記録したドライブレコーダーの記録開示をめぐって、今、由々しき問題が起こっている。「犯罪被害者保護法」では、事件の真相を知りたい被害者遺族に対し、原則、訴訟記録を開示することになっている。しかし、横浜地裁は、なぜかドラレコ映像のみ、謄写を“不可”としたのだ。裁判所の違法ともいえる対応に苦しむ遺族と被害者支援弁護士の訴えをノンフィクション作家の柳原三佳氏がレポートする。

「えっ!」ドラレコに記録されていた衝突の瞬間に漏れた加害者の声

「横浜地裁の寺澤真由美裁判官は、なぜ事故の瞬間が記録された貴重な証拠であるドライブレコーダーの開示を拒むのでしょうか。すでに刑事裁判でも証拠として採用されているのに……。私たち遺族を支援してくださっている弁護士さんも、こんなことは初めてだと憤っておられます」

 そう語るのは、横浜市の江口枝里さん(30)です。

 枝里さんは、2023年11月10日午後6時過ぎ、横浜市青葉区で起こった交通事故で、父の江口文明さん(当時59)を亡くしました。その一部始終は、加害者の車に装備されていたドライブレコーダーに記録されていました。

「父の最後の姿が映っているその動画を、私は、母、弟とともに刑事裁判の法廷で見ました。一番見たくない、辛い映像でした……。あの日、父は母をバス停まで迎えに行くため、自宅近くの横断歩道を青信号で渡っていました。そのとき、交差点を右折してきた車が、横断歩道の手前で止まることなくそのまま父に向かっていったのです」

江口文明さんが青信号で渡っていた横断歩道(遺族提供)

「次の瞬間、車は父に衝突しました。加害者はぶつかって初めて父の存在に気付いたようで、『えっ!』という、驚いたような声がドライブレコーダーに記録されていました。画面から姿を消した父は、おそらく路面にたたきつけられたのでしょう。頭蓋骨骨折、脳挫傷、腓骨脛骨骨折などの重傷を負い、翌日、搬送先の病院で息を引き取ったのです」

 加害車は、トヨタのランドクルーザープラド。運転していたのは、江口さんと同じ町内に家族と暮らす52歳の女性でした。歩行者用信号は青で、文明さんには何の落ち度もない事故でした。