2009年に裁判員裁判がスタートしてから16年。当初は真相発見のため遺体の写真も証拠として扱われ、裁判は厳正に行われていました。ところが、2013年3月、福島地裁郡山支部で開かれた強盗殺人事件の公判で、裁判員の女性が遺体のカラー写真を見てPTSDになったと主張し、慰謝料を請求する国家賠償請求訴訟を提訴しました。
その後、裁判所が極度に萎縮し、遺体写真などを「刺激証拠」としてそのまま採用しなくなったことは、前回の原稿でも触れたとおりです。
防犯カメラ映像も証拠採用されず、ときに法廷は検察官による「学芸会状態」に
髙橋弁護士は、この傾向は近年エスカレートしていると警鐘を鳴らします。
「最近は、危険運転致死傷罪の事故の様子が鮮明に記録されているドライブレコーダーや凶悪犯罪の一部始終が映っている防犯カメラの映像など、事故態様を明らかにしたり、犯人を特定したり、強い殺意を認定したりするためのベストエビデンスとなる客観証拠・直接証拠が一切採用されなくなっています。
では、それらをイラスト化して証拠申請するしかない検察官は、いったいどうやって立証していると思われますか? 信じてもらえないかもしれませんか、犯人が棒で被害者を何度も打撃している音声を、検察官が法廷内で、『ドンドン、バンバン、ドスン!』と、声を上げて再現せざるを得ないのです。まるで幼稚園の学芸会です」
シンポジウムで脳神経外科医が示した開頭時のイメージイラスト。これでは硬膜下血腫の状況を伝えることができない(高橋弁護士提供)
なぜ、そこまでして重要な証拠を隠さなければならないのでしょうか。先日のシンポジウムでは、裁判官が過剰に裁判員に配慮した「接待裁判」となっているという指摘もなされました。
娘の恵果さんを亡くした河本さんは語ります。
「どれだけ月日が流れても、血まみれの変わり果てた恵果の遺体と対面したあの日から、私の心は止まったままです。遺体の写真だけでなく、現場の写真すら裁判員に見せず、飲酒逆走死亡事件を『悪質とまでは言えない』と言い切った判決文を、私は今も受け入れることはできません。こんなお飾りの裁判員裁判ならいらないです」




