幼い子を「沼」にはめるジャニーのやり方

平本:「君いくつ?」と聞くと、「小学校1年生」という答えが返ってくる。自分たちはもう10歳年上なんです。小学校1年生と高校3年生が同じ場所で同じレッスンを受ける。そして、明らかにジャニーの関心は幼いほうに行っている。年齢が上のジュニアは花咲くことないまま終わってしまう。

 別に辞めなければならない理由もないのです。でも、17歳、18歳って、進学したり、就職したり、人生の進路を考える時期でしょ。そうした中で、自分の将来の方向性を決められる力を持っているジャニーの関心は既に自分には向いていない。若い子へどんどん移っていく。

 だから、自分で見切りをつける人もいるし、「デビューさせてください」とお願いしに行く人もいるし、「あと1回ドラマに出してくれ、それで諦める」という人もいる。

 北公次のように、恋人のように愛される関係を継続できれば、それは安心になる。でも、そういう関係が何もなく、声もかけられない。目も合わせてくれない。会社から呼ばれてバックダンサーをするだけ。しかも、新しく入ってきた自分よりうんと若い子の後で踊らされる。耐えられますか?

──相当にシンドイですね。

平本:もちろん、ダンスの上手い子やバク転ができる子には、踊る時に一定のポジションが与えられることがありますよ。でも、知らない幼い小学生が突然連れてこられて、真ん中で踊るように言われる。

 ジャニーはその子に「ユー、動いているだけでいいから」と言う。皆言葉を失って唖然とするけど、自分も入所した時に同じような扱いを受けているから、何が起きているかよく分かるのです。

 後のポジションであれば、踊り方が分からなくても、まだ前の人の真似ができる。一番前に立たされたらカンニングさえできない。どうすりゃいいのよ。そういうオドオドしている新人を見るのがジャニーは好きなの。ものすごく悪趣味でしたよ。

 曲が止まると「ユー、疲れたでしょ」「頑張ったね」なんて言いながら近寄る。そうやって幼い子を沼にハメて操っていたのです。(続く)

長野光(ながの・ひかる)
ビデオジャーナリスト
高校卒業後に渡米、米ラトガーズ大学卒業(専攻は美術)。芸術家のアシスタント、テレビ番組制作会社、日経BPニューヨーク支局記者、市場調査会社などを経て独立。JBpressの動画シリーズ「Straight Talk」リポーター。YouTubeチャンネル「著者が語る」を運営し、本の著者にインタビューしている。