国連改革の必要性
世界の平和と安全の維持に責任を持つ国際連合は、ウクライナ戦争もイスラエルとハマスの戦闘も終結させることができていない。安全保障理事会は、常任理事国間の見解の相違から拒否権が行使され、結論を出すことができず、国連は機能不全に陥っている。
武力行使については、国連憲章第7章「平和に対する脅威、平和の破壊及び侵略行為に関する行動」で細かく定められている。まず第41条で経済制裁などの非軍事的措置を定め、それが不十分なときは、第42条で軍事的措置をとることができるとしている。たとえば、1991年にクウェートにイラクが侵攻したときに、その権限が加盟国に与えられている。多国籍軍が出動するのも、この第42条を根拠にしている。安全保障理事会が許可することになっている。
したがって、常任理事国が拒否権を行使して安全保障理事会の意見が一致しなければ、国連による武力行使はできない。
ところが、2003年3月、アメリカのブッシュ(子)政権は、イラクが大量破壊兵器を保持しているとして、軍事攻撃し、サダム・フセイン政権を打倒した。これは、国連安保理決議に基づくものではなく、イギリスなどが加わった「有志同盟」による「集団自衛権の行使」としての軍事行動であった。
「大量破壊兵器の存在」は捏造であったことが判明しており、このイラク攻撃は、国際法上は問題である。当時、私は自衛隊派遣の準備のために、なお戦争が続いている危険なイラクに入り現地調査をしたが、「サダム・フセインが大量破壊兵器を保持していること」が嘘であることなど知る由もなかった。
国連決議なしでも武力行使を行うという大国の横暴は、今、ウクライナでも行われている。
カザンでの24日の拡大会合で、プーチンは「私たちは互恵的で公正な協力という普遍的な原則に基づくべきだと確信している」と強調し、国連安全保障理事会の改革を主張した。アジアやアフリカ、南米の代表国の常任理事国入りを支持するという。
西側から見れば、ロシア、イラン、北朝鮮は「悪の枢軸」である。この3カ国のうち2つまでが参加する集団が、親米的だということはできない。しかし、インドやブラジルはアメリカと良好な関係を維持しており、それは新規加盟国のエジプトやUAEも同じである。インドは多方面外交を上手くバランスをとりながら展開しており、したたかな実利追求の路線を維持している。
それだけに、拡大する分だけ、統一的な方針を打ち出すのは困難となろう。しかし、先述したように、人口でも経済力でもG7と競合するだけの重みを持ち、時間の経過とともにさらに重要性を増す集団であるだけに、西側に対する対抗軸としての役割も大きくなっていく。ロシアや中国は、それを狙っており、今回のカザンにおける首脳会議は、ロシアが議長国であることもあって、その方向付けを明確にする意図があったようである。
日本にとっても、BRICSとの付き合い方は、今後の大きな課題となろう。
【舛添要一】国際政治学者。株式会社舛添政治経済研究所所長。参議院議員、厚生労働大臣、東京都知事などを歴任。『母に襁褓をあてるときーー介護 闘いの日々』(中公文庫)、『憲法改正のオモテとウラ』(講談社現代新書)、『舛添メモ 厚労官僚との闘い752日』(小学館)、『都知事失格』(小学館)、『ヒトラーの正体』、『ムッソリーニの正体』、『スターリンの正体』(ともに小学館新書)、『プーチンの復讐と第三次世界大戦序曲』(インターナショナル新書)、『スマホ時代の6か国語学習法!』(たちばな出版)など著書多数。YouTubeチャンネル『舛添要一、世界と日本を語る』でも最新の時事問題について鋭く解説している。