世界の医学研究をリードするのは米国だ。日本では想像できないくらい多くの人が、GLP-1受容体作動薬を使っている。今年5月、米国のカイザーファミリー財団が発表した米国成人1479人を対象とした調査によれば、12%が何らかのGLP-1受容体作動薬を使った経験があり、6%は現在も使用中だという。

 日本では、GLP-1受容体作動薬というと、「いかがわしいダイエット薬」というイメージがあるが、米国の状況は全く違う。このあたり日本には伝わっていない。

 米国で、GLP-1受容体作動薬が関心を集める理由は、心臓病や脳卒中を予防するからだけではない。このような疾患と比べて、十分に研究が進んでいるとは言い難いが、がんに対する予防効果への期待も大きい。

肥満と関連するがんにも期待

 最近、医学界に衝撃を与えた研究が発表された。7月5日、米国のケースウェスタンリザーブ大学の研究チームが、『米国医師会誌(JAMA)ネットワークオープン』誌に発表したものだ。

 彼らは、GLP-1受容体作動薬が処方された約160万人の15年間にわたる経過を解析した。

本コラムは新潮社の会員制国際情報サイト「新潮社フォーサイト」の提供記事です。フォーサイトの会員登録はこちら

 この研究では、以前から肥満との関連が指摘されていた13種のがんを対象としたが、10種のがんの発症が大幅に減少していた。例えば、GLP-1受容体作動薬以外の治療を受けたコントロール群と比較して、胆嚢がん、髄膜腫、膵臓がん、肝細胞がん、卵巣がんは、それぞれ65%、63%、59%、53%、48%発症するリスクが低下していた。これ以外にも、大腸がん、多発性骨髄腫、食道がん、子宮内膜がん、腎臓がんでは発症リスクの低下を確認した。

 同様の研究結果は、別のグループからも報告されている。昨年11月、デンマークの研究グループが、欧州糖尿病学会が発行する『糖尿病学誌』に発表した研究では、GLP-1受容体作動薬を用いた患者で、前立腺がんのリスクが9%低下したことが確認されている。前立腺がんは加齢と共に急増する。つまり、高齢者ほどリスクが高い。70歳以上に限定して解析した場合、リスクは44%低下していたという。

◎新潮社フォーサイトの関連記事
「勝利計画」の重要ポイント、クルスク越境攻撃は戦線膠着
フランス「バルニエ内閣」が示唆する欧州政治の「新トレンド」
ヨーカ堂売却は対抗策として有効か――加クシュタール、セブン&アイ買収提案の「本当の狙い」