(文:上昌広)
英『ネイチャー』誌は、2023年10月25日、「日本の研究力はもはや世界レベルではない」という記事を掲載した。文部科学省は東北大学を「国際卓越研究大学」の認定候補に選定し、巨額の予算を措置するつもりだ。おそらく、その効果も限定的だろう。明治以来、巨額の予算を措置されつづけた理3の現状が、そのことを示している。
知人のジャーナリストが、東京大学理科3類(理3)についての本を出すというので取材を受けた。理3は医学部医学科へと進学する東大教養学部の科類で、日本の大学受験の最難関とされている。
知人の関心は「日本でもっとも優秀な頭脳が集う東大理3から、なぜノーベル賞受賞者が出ないか」だった。私は1987年に東大理科3類に合格した。今年は入学から38年目になる。このことについて、自分なりに考える機会があった。本稿でご紹介したい。
受賞者の大半は西日本出身
まずは、我が国のノーベル賞受賞者の概要だ。2023年末現在、29人が受賞している(カズオ・イシグロを含む)。内訳は物理学賞12人、化学賞8人、生理学・医学賞5人、文学賞3人、平和賞1人だ。ノーベル財団の公表している出生国をもとに調査したところ米(299人)、英(97人)、独(89人)、仏(64人)、スウェーデン(30人)についで第6位となる。
日本の特徴は、2001年以降、受賞者が急増していることだ。総受賞者29人中21人がこの時期に受賞している(図1)。
では、どんな人が受賞しているのだろうか。多くの読者は、ノーベル賞は京都大学関係者が多いとお考えではなかろうか。
確かに、1949年に我が国で初めてノーベル賞を受賞した湯川秀樹(物理学賞)から、福井謙一(1981年、化学賞)、益川敏英(2008年、物理賞)、山中伸弥(2012年、生理学・医学賞)、本庶佑(2018年、生理学・医学賞)まで5人の京大教授、名誉教授がノーベル賞を受賞している。
一方、東大教授で受賞したのは、小柴昌俊(2002年、物理学賞)と梶田隆章(2015年、物理学賞)の師弟コンビだけだ。
興味深いのは、京大教授が理論物理から基礎医学まで、アイデア勝負の研究で受賞しているのに対し、東大教授の受賞がカミオカンデなど巨大な実験装置を要する研究であることだ。行政との距離の違いが、両大学の振る舞いに影響しているのだろう。
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