ただ、この結果から、ノーベル賞で東大が京大に完敗していると結論するのは早計だ。ノーベル賞受賞者の出身大学で最も多いのは東大で9人が卒業している。これは京大(8人)を抑えてトップだ。ちなみに、この中には佐藤栄作の平和賞(1974年)と、川端康成(1968年)、大江健三郎(1994年)の文学賞が含まれる。自然科学に限定すれば6人となる。
特記すべきは、彼らの経歴だ。小柴が出身母体の東京大学理学部でキャリアを積み上げていった以外は、江崎玲於奈(1973年、物理学賞)の米IBMトーマス・J・ワトソン研究所、南部陽一郎(2008年、物理学賞)の米シカゴ大学、根岸栄一(2010年、化学賞)の米パデュー大学、大隈良典(2016年、生理学・医学賞)の岡崎国立共同研究機構や東京工業大学、真鍋淑郎(2021年、物理学賞)の米国立気象局やプリンストン大学など、母校以外が活動の中心となっている。
これは湯川、福井、本庶らが大学卒業後も京都大学を中心にキャリアを積み上げたこととは対照的だ。
出身校も興味深い。東大卒のノーベル賞受賞者で、東京の高校を卒業した人はいない。関東圏も小柴の神奈川県立横須賀高校、根岸の神奈川県立湘南高校だけだ。残りは、江崎の旧制同志社中学(私立、京都、現同志社高校)、南部の旧制福井中学校(現福井県立藤島高校)、大隈の福岡県立福岡高校、真鍋の旧制三島中学(現愛媛県立三島高校)となる。川端も旧制茨木中学(現大阪府立茨木高校)、佐藤も旧制山口中学(現山口県立山口高校)、大江は愛媛県立松山東高校だ。
東京大学入学者は6割程度が関東出身者だ。ところが、ノーベル賞受賞者に限れば22%に低下する。残りは全員が西日本出身者だ。
では京大はどうだろうか。湯川と朝永振一郎(1965年、物理学賞)は旧制京都一中(現京都府立洛北高校)で、残る福井、野依良治(2001年、化学賞)、吉野彰(2019年、化学賞)も関西の高校を卒業している。関西以外は利根川進(1987年、生理学・医学賞)の東京都立日比谷高校、赤﨑勇(2014年、物理学賞)の旧制鹿児島二中(現鹿児島県立甲南高校)、本庶の山口県立宇部高校だけだ。
東大と共通するのは、西日本の高校出身者が多いこと(8人中7人)だ。我が国のノーベル賞受賞者のうち、東大・京大卒業生は約59%を占める。この結果、我が国のノーベル賞受賞者の大半が西日本出身者となる。(図2)
首都圏の「藩校」を潰した明治政府
問題は、首都圏の高校から東京大学に進んだ学生が、その後、ノーベル賞を受賞していないことだ。
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