不謹慎な空想に浸るピカソ

 欧州連合(EU)離脱を強行したボリス・ジョンソン氏は首相当時、女王とフィリップ殿下との会合に遅刻する夢を見た。次に女王に謁見した時、ジョンソン氏はその夢について話す。他の首相からも聞いたことがあるかのように女王は「あらそう。裸だったの?」と尋ね返した。

 人は準備不足や人前で裸になるなど恥ずかしい状況に置かれる夢をよく見る。こうした夢はプレッシャーのかかる場面でストレスや緊張、弱さに対する不安と関連していることが多い。ブラウン氏は伝記で女王がプレッシャーに苛まれる首相と何度も引見してきたことをうかがわせた。

「内面を見せず、会話も答えではなく質問に限定されていたため、女王は人間鏡となった。楽観主義者には楽観主義者に見え、悲観主義者には悲観主義者に見えた。内部の人間には親しげに、外部の人間にはよそよそしく、畏敬の念を抱く者にはカリスマ的に見えた」(ブラウン氏)

 1983年、ロナルド・レーガン米大統領夫妻がロイヤルヨット「ブリタニア」で夕食と一泊を楽しんだ後、ナンシー夫人は女王と自分は似ていると思った。「女王とファーストレディではなく、2人の母親と妻が自分たちの人生について、主に子供たちについて話していた」(ナンシー夫人)

 56年、バッキンガム宮殿で開かれた祝宴でエリザベス女王の隣に座ったソ連指導者ニキータ・フルシチョフは、女王に対して「夏のうららかな午後にゴーリキー通りを歩いていたら出会いそうな若い女性」という印象を持った。

 画家のパブロ・ピカソに至っては女王とマーガレット王女と定期的に3Pを楽しむ不謹慎な妄想に浸っていた。ピカソは英国人の友人に「もし英国人が、私が2人と夢の中で何をしたかを知ったら私をロンドン塔に連れて行き、首を切り落とすだろう」とよく話していたという。

【木村正人(きむら まさと)】
在ロンドン国際ジャーナリスト(元産経新聞ロンドン支局長)。憲法改正(元慶応大学法科大学院非常勤講師)や国際政治、安全保障、欧州経済に詳しい。産経新聞大阪社会部・神戸支局で16年間、事件記者をした後、政治部・外信部のデスクも経験。2002~03年、米コロンビア大学東アジア研究所客員研究員。著書に『EU崩壊』『見えない世界戦争 「サイバー戦」最新報告』(いずれも新潮新書)。