藤原伊周・隆家兄弟の「絆」を感じる名シーン

 ドラマにおいては、御嶽詣で注目された人物がほかにもいた。竜星涼演じる藤原隆家である。

 隆家は御嶽詣のメンバーではなかったが、「急がれよ!」と叫びながら、一行の前に突然現れたかと思うと、道長に駆け寄った。

 みなが驚いていると、隆家は「手前で大きな石が落ちてまいりました。このあたりで落石が近く起きるかもしれませんね。急ぎ通り抜けることをお勧めいたします」と一行に呼びかけた。いきなり来た理由については、「私も中宮様のご懐妊を祈願しなければと思い立ちまして」と説明している。

 このときに、隆家が身にまとう装束があまりに汚れていないので「どのルートで登ったんだ?」と、やはりSNSで話題に上ることとなった。

 実は隆家が現れたのには、理由があった。この御嶽詣の最中に、藤原伊周(これちか)は道長を暗殺するというとんでもない計画を進めていた。弟の隆家はそれを止めるために、自分も御嶽詣に出かけていき、道長が狙われる寸前で誰にも気づかれずに計画を阻止した、というのがドラマでのストーリーである。

 計画を妨害された伊周が「隆家、お前は俺の仇か?」と詰め寄ると、弟の隆家は「兄上を大切に思うがゆえに阻んだまで。左大臣を亡きものにしたところで何も変わらぬ。おとなしく定めを受け入れて、穏やかに生きるのが兄上のためだ」と説得。

 さらに、伊周の人生が暗転した「長徳の変」について、隆家なりに贖罪の気持ちを持っていたことが明らかになる。隆家は胸中をこう吐露している。

「俺が花山院の御車を射たことで兄上の行く末を阻んだことは、昔も今もすまなかったと思っている。それゆえに、憎まれても兄上を止めねばならぬと思ったのだ。これが俺にできる、あの過ちのおわびなのだ」

 2人の姿が池の水面に映し出されて視覚的にも美しく、兄弟ならではの絆を感じる名シーンとなった。