福井県越前市の公園に立つ紫式部の像福井県越前市の公園に立つ紫式部の像(写真:共同通信社)

『源氏物語』の作者、紫式部を主人公にした『光る君へ』。NHK大河ドラマでは、初めて平安中期の貴族社会を舞台に選び、注目されている。第33回「式部誕生」では、まひろ(紫式部)が、道長の娘で一条天皇の中宮である彰子のもとに出仕するが、環境ががらりと変わり、筆が進まないばかりか夜もよく眠れなくなり……。『偉人名言迷言事典』など紫式部を取り上げた著作もある、偉人研究家の真山知幸氏が解説する。(JBpress編集部)

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紫式部が宮中で「藤式部」と呼ばれていたワケ

『光る君へ 宮仕え編』といったところだろうか。ついに、まひろ(紫式部)が、藤原道長の娘にして、一条天皇の中宮である彰子(あきこ)のもとに仕えることになった。

 ドラマの冒頭では、小林きな子演じる「宮の宣旨(せんじ)」という女房が登場。宮の宣旨は『紫式部日記』にも名が出てくる女房なので、これからもまひろと絡みがあることだろう。

 宮の宣旨によるまひろへの第一声で、今回の放送タイトルが「式部誕生」となっている理由を視聴者は早々に知ることになる。宮の宣旨は、まひろに「今日よりそなたを藤式部(とうしきぶ)と呼ぶことにいたす」と告げると、こう説明を続けた。

「そなたの父は、かつて式部丞・蔵人であったであろう」

 紫式部の父・為時(ためとき)は、以前に式部丞(しきぶのじょう)・蔵人に取り立てられたことがあった。式部丞とは、役人の人事や教育を担当する式部省に務める判官のことだ。

 長く官職に恵まれなかった為時だったが、東宮・師貞親王(もろさだしんのう)の御読書始において副侍読(ふくじどく)を務めたことで、師貞親王が花山天皇として即位したときに抜擢されることになったのである。

 ちなみに、その後、花山天皇が出家すると、為時は再び失職。越前守に任ぜられるまで約10年あまり、官位から離れる。ドラマでまひろが宮の宣旨から「藤式部」という呼び名を聞かされてもすぐに反応できなかったのは、父が式部省の役人だったのが、あまりに昔の話だったからだろう。

 歌人の赤染衛門(あかぞめえもん)は、式部と同時期に彰子に仕えていた。赤染衛門が後に書き残す歴史物語『栄花物語』でも、紫式部が「藤式部」の名で登場している。やはり、宮中では、父のかつての官職から「藤式部」と呼ばれていたらしい。

「藤式部」から「紫式部」へと呼称が変わった理由はよく分かっていないが、『源氏物語』の登場人物「紫の上」に由来しているのではないかとも言われている。