藤原道長は平氏の脅威をいち早く察知していたのか

 今回の放送では、一条天皇に面と向かって異を唱える道長の姿も印象的だった。

 官職を任命する朝廷の儀式である「除目の儀(じもくのぎ)」において、平維衡(これひら)が伊勢守の国司に任じられると、道長が任命に反対。維衡が一族の平致頼(むねより)と伊勢国で合戦を繰り広げていたことを問題視した。

 任命した一条天皇の肩を持ち、宮川一朗太演じる右大臣の藤原顕光(あきみつ)が、道長の反対に異議を唱えると、道長はこう断じた。

「そういうものを国司とすれば、どの国の国司もやがては武力に物を言わせようといたします。右大臣はそれでよいとお考えなのだな」

 この平維衡とは、伊勢平氏の祖であり、後に権勢を振るう平清盛の直系先祖にあたる。道長が平氏の脅威をいち早く察していたというのは、「道長は民思いで優秀な政治家だった」とする『光る君へ』らしい展開だ。もしかしたら、ドラマならではの話だと誤解した視聴者もいたかもしれない。

 だが、「維衡だけは任命しないでください」と、道長が一条天皇に訴えたことは、自身の『御堂関白記』〈寛弘3(1006)年1月28日分〉にも記載されている。

 また、ドラマではその後、道長が一条天皇を説得し、伊勢守交代が認められるが、これも藤原行成(ゆきなり)が記した日記『権記』〈寛弘3(1006)年3月19日分〉に、伊勢守の維衡が解任されたことが書き残されている。

 実際の道長が『光る君へ』にあるような、民を第一に考えた政治家だったかどうかは分からないが、日本の将来を見通す力と、より良い方向へ向かわせる実行力が伴っていたことは確かそうである。

 ドラマの終盤では、藤原氏の氏寺である興福寺の別当・定澄(じょうちょう)と、定澄に仕える僧・慶理(きょうり)が道長に面会を求めて「自分たちの訴えを聞かなければ、3000の兵を差し向ける」と脅してきた。「やってみよ」と応じる道長だが、果たしてこの問題をどう解決するのか。

 次回放送の「目覚め」でも、道長の辣腕ぶりが見られそうである。

【参考文献】
『新潮日本古典集成〈新装版〉紫式部日記 紫式部集』(山本利達校注、新潮社)
『藤原道長「御堂関白記」全現代語訳』(倉本一宏訳、講談社学術文庫)『藤原行成「権記」全現代語訳』(倉本一宏訳、講談社学術文庫)
『現代語訳 小右記』(倉本一宏編、吉川弘文館)
『紫式部』(今井源衛著、吉川弘文館)
『藤原道長』(山中裕著、吉川弘文館)
『紫式部と藤原道長』(倉本一宏著、講談社現代新書)
『偉人名言迷言事典』(真山知幸著、笠間書院)

【真山知幸(まやま・ともゆき)】
著述家、偉人研究家。1979年、兵庫県生まれ。2002年、同志社大学法学部法律学科卒業。上京後、業界誌出版社の編集長を経て、2020年より独立。偉人や名言の研究を行い、『偉人名言迷言事典』『泣ける日本史』『天才を育てた親はどんな言葉をかけていたか?』など著作50冊以上。『ざんねんな偉人伝』『ざんねんな歴史人物』は計20万部を突破しベストセラーとなった。名古屋外国語大学現代国際学特殊講義、宮崎大学公開講座などでの講師活動も行う。徳川慶喜や渋沢栄一をテーマにした連載で「東洋経済オンラインアワード2021」のニューウェーブ賞を受賞。最新刊は『偉人メシ伝』『あの偉人は、人生の壁をどう乗り越えてきたのか』『日本史の13人の怖いお母さん』『文豪が愛した文豪』『逃げまくった文豪たち 嫌なことがあったら逃げたらいいよ』『賢者に学ぶ、「心が折れない」生き方』『「神回答大全」人生のピンチを乗り切る著名人の最強アンサー』など。