『源氏物語』での“ドン引き展開”にも彰子は没入

 一方、引っ込み思案の彰子のほうは、まひろのアドバイスが心に響いたようだ。一条天皇にまっすぐ過ぎるアプローチをして、ついにその思いが届くこととなった。

 きっかけとなったのは『源氏物語』第5帖の「若紫(わかむらさき)」である。ドラマでは、中宮の前で女房たちが「若紫」を読み上げては、こんな感想を述べあった。

「無理に連れ去っていくところは何だかちょっと……」
「無分別の極みでございますわ」

 物語の内容は、光源氏が10歳の美しい少女に心を惹かれて、強引にさらってしまうと、自宅に囲い込んで、理想の女性に育てようとするというもの。女房たちがドン引きするのも無理はない内容のように思える。

 しかし、彰子は「光る君に引き取られて育てられる娘は私のようであった。私も幼き頃に入内して、ここで育ったゆえ」とわが身を重ねて、すっかり物語に引き込まれてしまったようだ。言うまでもなく、彰子にとって「光る君」は一条天皇である。少女が今後たどる運命について、作者であるまひろにこう懇願した。

「光る君の、妻になるのがよい。妻になる……なれぬであろうか。藤式部(とうしきぶ)、なれるようにしておくれ」

 そんな彰子にまひろは「帝に真の妻になりたいと仰せになったらよろしいのではないのでしょうか。帝をお慕いしておられましょう」とアドバイス。さらに「息づくお心の内を帝にお伝えなされませ」と後押しすると、彰子の目からは涙がこぼれる。

 そのときにちょうど一条天皇が現れると、彰子は「お上、お慕いしております!」と涙ながらに訴えかけるのであった。

 物静かな人ほど内に秘めたる思いがあり、口を開くと情熱的で驚くことがある。一条天皇としても、彰子のほとばしる思いに心を動かされたのだろう。2人は晴れて結ばれることになった。道長としても過酷な御嶽詣をした甲斐があったというものだ。

 次回放送の「待ち望まれた日」で彰子は懐妊。出産に至るまでの慌ただしい様子が描かれそうだ。

【参考文献】
『新潮日本古典集成〈新装版〉紫式部日記 紫式部集』(山本利達校注、新潮社)
『藤原道長「御堂関白記」全現代語訳』(倉本一宏訳、講談社学術文庫)『藤原行成「権記」全現代語訳』(倉本一宏訳、講談社学術文庫)
『現代語訳 小右記』(倉本一宏編、吉川弘文館)
『紫式部』(今井源衛著、吉川弘文館)
『藤原道長』(山中裕著、吉川弘文館)
『紫式部と藤原道長』(倉本一宏著、講談社現代新書)
『偉人名言迷言事典』(真山知幸著、笠間書院)

【真山知幸(まやま・ともゆき)】
著述家、偉人研究家。1979年、兵庫県生まれ。2002年、同志社大学法学部法律学科卒業。上京後、業界誌出版社の編集長を経て、2020年より独立。偉人や名言の研究を行い、『偉人名言迷言事典』『泣ける日本史』『天才を育てた親はどんな言葉をかけていたか?』など著作50冊以上。『ざんねんな偉人伝』『ざんねんな歴史人物』は計20万部を突破しベストセラーとなった。名古屋外国語大学現代国際学特殊講義、宮崎大学公開講座などでの講師活動も行う。徳川慶喜や渋沢栄一をテーマにした連載で「東洋経済オンラインアワード2021」のニューウェーブ賞を受賞。最新刊は『偉人メシ伝』『あの偉人は、人生の壁をどう乗り越えてきたのか』『日本史の13人の怖いお母さん』『文豪が愛した文豪』『逃げまくった文豪たち 嫌なことがあったら逃げたらいいよ』『賢者に学ぶ、「心が折れない」生き方』『「神回答大全」人生のピンチを乗り切る著名人の最強アンサー』など。