パフォーマンスはおおむね良好だが未成熟な部分も
次に電動パワートレイン。ロードテスト車のシールAWDは前後に電気モーターを1基ずつ配し、前後輪を独立して制御する電動AWD。パワー面に関してはまず不満は出ないだろうというくらい強力だった。
GPSロガーを使用して計測した実速度0─100km/h(メーター読み102km/h)の加速タイムはメーカー公表値に一致する3.8秒だった。実測値ベースではモデル3パフォーマンスの3.4秒と同ロングレンジAWDの4.2秒のちょうど中間に位置する数値だ。
モデル3パフォーマンスはその後の改良でメーカー公表値2.9秒に向上したが、4秒を切る時点で相当のスポーツモデルを含め、大抵のクルマを置き去りにできる速さだ。
シールのインパネにはバッテリー出力が表示されるようになっている。充電率54%の時にフル加速を試みたときのピーク値は393kW。変換効率90%と仮定すると、前後の電気モーターが発生するパワーの合算値は354kW、馬力に直すと481馬力となる。
ただしずっとそのパワーが持続するわけではなく、発進してから60km/h近辺で300kWを超え、80~90km/h近辺でピークに達し、その後は緩やかに落ちていくという感じである。内燃機関で言えば550~600馬力に相当するパフォーマンスといったところだろう。
電動AWDはモデル3や日産自動車「アリア e-4ORCE」などが徹頭徹尾ナチュラルであるのに対し、シールはコーナリング中の姿勢変化を割と積極的に演出する制御を持つ。フィール的にはスバルのSUV型BEV「ソルテラ」に似ていた。
悪天候時の安定性保持はトップクラスではないが電動AWDで良かったと思える水準にはある。往復とも静岡区間は大雨警報下の走行で、深い水たまりを踏んで左右輪のグリップバランスが大きく崩れる局面が多かったが、それでも直進がしっかり維持されるくらいの能力はあった。
絶対的なパフォーマンスはおおむね良好だったが、未成熟な部分もあった。それは先に起こるであろう現象を読んであらかじめ制御を入れるフィードフォワードの部分だ。
例えば、うねりや段差で前サスペンションが大きく伸びた後に正位置に戻るというような動きの時に電気モーターの出力制御に過不足があり、前後方向の微妙な揺れとして感知されるのだ。
体感的には本当にわずかなノイズだが、誰でも無意識のうちに感じ取る動きである。フィードフォワード制御はクルマ作りの経験の深さがものを言う。事が起こってから制御を入れるフィードバック側の作り込みはほぼ完璧なので、ぜひ煮詰めていただきたいところだ。
【後編】では電費、充電、ユーティリティ、先進安全システムなどについてロードテストの結果を紹介する。