走行フィール、静粛性&防振性の向上に寄与する「堅牢性の高さ」

 ではレビューに入っていこう。筆者は今春、コンパクトクラスのドルフィンの長距離ロードテストを行っている。そのゆるゆるとしたテイストから、シールもそれに似たタッチを持っているのではないかと予想しながらテストに挑んだが、実車はドルフィンとはまったく異なる本格的なグランドツアラー。

BYDシールAWDBYDシールAWD(天空の城とあだ名されている竹田城をバックに/筆者撮影)

 BEVのリファレンスモデルというべき存在のテスラは品質安定性に難ありという弱点を依然解消できないでいるが、電動車作りの基盤技術、コネクティビティー、AIなど多くの点でトップランナーだ。「モデル3」の驚異的高性能、快適性、先進性はそのたまものと言える。

 日米欧のライバルメーカーはBEV分野においては超高性能車やプレステージカーを除き、テスラと性能や先進性で勝負をせず、他の部分で差別化を図る戦略を取っている。強い相手との直接競合を避けるのはビジネスにおいては賢明とされる手法だ。

 BYDとて、テスラと同等の電動化技術を持っているわけではない。が、BYDは身の程を知るという賢明な道を選ばなかった。トップランナーがいるならそれをキャッチアップしてやろうという野心をむき出しにして作ったという感がシールの随所ににじみ出ていた。シールに乗っていてもっとも中国らしさを覚えたのはその点だった。

BYDシールAWDBYDシールAWD(桜島をバックに/筆者撮影)

 要素別に深掘りしていこう。走りや快適性を決める車体、シャシーは最新のBEVとしていっぱしの水準にあった。技術的な特徴はボディ自体をバッテリーケースとし、バッテリーセルを直接組み付けるセル・トゥ・ボディという構造を持つこと。バッテリーセルの一部が劣化したときの診断や交換に手間暇がかかるという欠点があるが、ボディの堅牢性やコストの点では有利だ。

 その堅牢性の高さが走行フィール、静粛性&防振性の向上に少なからず寄与しているように感じられた。筆者が九州方面へ長距離試乗を行うときに注意深く観察する区間のひとつに鳥取県の北栄町(国道9号線)がある。舗装が劣化してボコボコになった、自動車開発の世界ではベルジャンロード(ベルギーの道の意)などと呼ばれる悪路である。

 路面のうねりや突き上げの緩衝、路面騒音の処理などが厳しく試される局面だが、シールAWDはスポーティなサスペンションセッティングであるにもかかわらず、左右輪にバラバラに入ってくる大入力の抑え込み、それに伴う騒音・振動の低減はDセグメントカーとして非常にハイレベルだった。

空気抵抗係数は0.219と大変優秀。トランクリッドも空気の整流のため複雑な形状(筆者撮影)
乱流発生防止のためアンダーフロア全面はサスペンションのアームもほとんど見えないくらいカバーで覆われていた(筆者撮影)

 良路での乗り心地は全車速域で良好で、極めて滑らかだった。サスペンションのフリクション感低減についてはそれほど優れているわけではないが、空車重量2210kgというマスの大きさがプラスに作用するのか、フラット感は高かった。

BYDシールAWDBYDシールAWD(鹿児島・薩摩半島最南端に向けてドライブ中。遠方の山は開聞岳/筆者撮影)

 ハンドリングは低重心設計、前後50:50の重量配分、高度なサスペンションレイアウトなどの恩恵か、ニュートラル感の強い実に素直な仕上がりだ。

 最近はミニバンやSUVに押されてセダンはすっかり少数派となってしまった。筆者の嗜好がその少数派であることを重々承知で言わせてもらうと、ロングツーリングでは「やっぱり低重心最高!」と言いたくなる乗り味だった。

BYDシールAWDBYDシールAWD(鹿児島~宮崎県境のえびの高原にて/筆者撮影)

 ただしここでは前述の重量がネガティブに作用して、速さはあるもののフィールはいささか重々しい。

 タイヤは235/45R19サイズのコンチネンタル「エココンタクト6 Q」。このタイヤは走行抵抗の低減と静粛性を重視したもので、しなやかなフィールを持っており、加えて豪雨時の排水性も優秀だったが、グリップ力そのものは2.2トンの車重に対していっぱいいっぱいという印象。交換時はピレッリ「Pゼロ エレクト」のような電動車両用高性能タイヤを選択したほうがより楽しめると思われた。

タイヤは235/45R19サイズのコンチネンタル「エココンタクト6Q」。しなやかでパターンノイズの小さい素晴らしいタイヤだったが、2.2トンの車重にはやや負け気味だった(筆者撮影)
500馬力級のパワーに対応するため軽合金対向ピストンブレーキキャリパー、穴あきブレーキローターなど“やる気”がみなぎる仕様だった(筆者撮影)