マツダMX30R-EVマツダMX30R-EV。硬質な造形をあえて緩く見せる奥ゆかしいデザイン(筆者撮影)

井元康一郎:自動車ジャーナリスト)

 1967年登場の「コスモスポーツ」に初搭載されて以来、マツダの技術面のシンボルであり続けてきたロータリーエンジンを搭載する新商品、「MX-30 Rotary-EV」が2023年11月にリリースされた。そのMX-30 R-EVを600kmほどロードテストする機会があったので、走行データを交えつつインプレッションをお届けする。

「MX-30」ロータリーEVとエンジンを持たないBEVとの違い

 2013年にスポーティクーペ「RX-8」が生産終了となってから10年余りのブランクを経て登場したロータリーエンジン搭載車、「MX-30 Rotary-EV(以下R-EV)」。EVの文字が示す通り電動モデル。純EVに比べて小容量のメインバッテリーを持ち、その電力が尽きるとエンジンをエネルギーソースとして走る、いわゆるプラグインハイブリッドカー(PHEV)である。

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 MX-30は観音開きのサイドドアを持つ一風変わった全長4.4m級のコンパクトクロスオーバーモデル。デビュー時期は2020年と、それほど新しいわけではない。R-EV追加前はエンジンで走行するマイルドハイブリッド、エンジンを持たないBEVの2本立てだった。

マツダMX30R-EVのフロントビューマツダMX30R-EVのフロントビュー。標準型との識別点はほとんどない(筆者撮影)

 R-EVは第3のパワートレインとなるわけだが、モデルの成り立ちをBEVとの違いも見ながらいま一度簡単におさらいしてみよう。

 車体サイズは全長4395mm、全幅1795mmは両者共通。異なるのは全高でBEVの1565mmに対してR-EVは1595mm。最低地上高はどちらも130mmとかなり狭い。旧式の機械式駐車場に入れられる全高1550mmとラフロードや雪道で底面を擦る心配をあまりせずに済む最低地上高180mmを両立させているガソリンモデルとは開発目的が根本的に異なることが見て取れる。車両重量はエンジン車1460kg、BEV1650kgに対してR-EVは1780kgと最も大きい。

MX30R-EVのサイドビューMX30R-EVのサイドビュー。全長4.4m級のモデルとしてはかなりのロングノーズだ(筆者撮影)

 パワートレインは排気量830ccの新開発「8C」ロータリーエンジンで発電機を回し、得られた電力で走るシリーズハイブリッド。ロータリーといえば小型で高出力を出せる半面、燃費が悪いという課題を抱えていた。8Cロータリーは圧縮比アップ、直噴ガソリン化など、弱点解消のための技術を盛り込んだ完全新造品である。最高出力は53kW(72馬力)。

 電気モーターの最高出力は125kW(170馬力)と、107kW(145馬力)のBEVより強力。バッテリーパックはBEVの192セルのちょうど半分の96セル。定格電圧はBEVと同じ355Vで、電流容量がBEVの100Ahに対して50Ahと半分。総容量は17.8kWh。

 エンジンを発電に用いる2モーター型ハイブリッドの中にはホンダ、三菱自動車のようにエンジンパワーを直接使った方がいい時は直結のパラレルハイブリッドになるものや、トヨタのようにエンジンパワーを駆動と発電に無段階に配分できるスプリット型と呼ばれるものもあるが、MX-30 R-EVのロータリーは日産自動車の「e-POWER」と同様、全領域で発電のみに用いられる完全なシリーズハイブリッドだ。

エンジンルームにはR-EVハイブリッドシステムが収まる(筆者撮影)

 マツダのコア顧客層の一部にいまだに残るロータリーファンとしては、直接駆動に使ってこそのロータリーという願望は満たされない半面、10年以上消えたロータリーエンジンが市販車として復活したこと自体は喜ばしいだろう。

 個人的な話で恐縮だが、筆者はかつて「コスモロータリーターボGT」に乗っていたことがある。ゆえにMX-30 R-EVがどんなクルマになっているかということには興味津々だった。興味の中心は新型ロータリーがどんな音、振動のものになっているかということだが、それだけではない。

 環境規制が加速度的に厳しくなっている今日、ロータリーというアイデンティティーだけでは生き抜くことはできない。熱効率、騒音・振動からコストまで、総合力でレシプロエンジン(吸気・圧縮・燃焼・排気の各行程が、ピストンの往復運動によって行われるエンジン)と正面対決することが求められる。あえてロータリーをパワーソースに使った意義はあるのかどうか。

 ということで、実相を確かめるべく短距離ながらロードテストを実施した。