農業・漁業支援は的を射ているか?

 早い人は中学、高校から都内や伊豆方面に受験のために親といっしょに海を渡るのだという。戻ってきたいと思っても仕事の数は限られている。家業がある人は良いかもしれないが、そう容易ではない。

 こうした数多の難条件がある種の諦念の背景にあるようだ。国や東京都はいったい何をしようとしているのか。伊豆諸島は1953年成立の離島振興法という法律に基づく「離島振興対策実施地域」に指定されている。それを受けて東京都は「東京都離島振興計画(令和5年度~令和14年度)」を策定するなど振興策を主導している。ただし、その内容はというと農業技術の向上や特産品の開発支援、観光促進、雇用やイベント情報の提供といささか心許ない。

 というのも、先程確認したように、実は大島の就業者の多くは第3次産業に従事している。これから大きく第1次産業や第2次産業に従事する人が増えるということは少々考え難い。ということは、農業支援や漁業支援は重要ではあるものの、島の仕事を増やすことには繋がらないのではないか。

 コロナ禍を経験してさえ、日本社会は世界で見ても珍しいほどにテレワークやワーケーションが進んでいない。通信環境とワーケーション施設も十分ではないというのが東京都の離島振興計画の分析である。

 抽象的にいえば、観光客を含めてさえ、島の内需それ自体は基本的に今後も現在以上に期待することはできない。これはほぼ制約条件といえるから、販路を「島の外」に見出す方法を考えるべきだ。まずは最寄りであり、最大の都道府県である東京都こそがもっぱらその対象となるはずだ。なにせそこには1400万人の市場が控えている。イベントや販路開拓が不足し必要としているのは島内ではなく、23区内を始めとする東京都においてなのではないか。具体的なアイディアが弾切れ状態なのかもしれない。

 それにしても、やや暗い話をしてくれたUターンの人やIターンで居着いた人たちも「島の魅力」を訪ねると口ごもったが、「それでも島に住みたいのか?」と問うと、皆口を揃えてそうだという。Uターンの人は落ち着くというのだ。仕事を継いだ人は家業を継ぐことよりも、それを生業として島に住めるようになったことが嬉しいのだと話してくれた。

 それはいったいなぜなのだろうか。充実した医療や教育環境、利便性の高いフランチャイズの店舗といったわかりやすい理由はひとつも見当たらない。おそらく台風で定期便が止まったりすると、食材確保すら難しいし、輸送等コストのため島の物価は決して安くないどころか高くさえあったりする。

 結局のところ、その魅力の源泉は一泊二日という短い滞在のあいだには鈍感な筆者には理解できなかった。ただ、利便性でも、経済的動機でもない、それを超えるなにかがあるのだろうということと、それが島に住むことのある種の動機づけになっているらしいということはわかった。

 その理由を探るためにも、また遠くないうちに再訪したいと思わせられる、普段住むのと同じ、しかし大きく異なる東京都内のちょっとした小旅行であった。帰宅する船を待つ桟橋には、たまたま筆者の滞在を知って訪ねてくれた政党関係者と、前日に訪ねた地元のご夫婦が見送りに来てくれた。そこでまた少しの会話を交わした。

 勝手なことを各所で無責任に論じ、書き、話すのが筆者の仕事なわけだが、先方に筆者の姿が視認できていたかは定かではないにもかかわらずそれでも桟橋から船が離れるときに、手を振って出港を見送ってくれるそのあまりに実直な姿が船窓から目に入り、ほんの少しだけ胸が痛んだ。