次期IOC会長は

 筆者はIOC関係の仕事に従事しているA氏と昨年の今頃に都内で会い、情報を収集していた。A氏が日本人なのか外人なのかも伏せるが、40年にもわたってIOC関係に携わっているのだから詳しいのは当然である。筆者の関心の中心は、「ポスト・バッハ」であった。五輪憲章では会長任期を最長で2期12年としている。2013年に会長となったバッハ氏は、順当に行けば2025年には退任することになっているからだ。

――IOCの次期会長は誰になるのでしょう?

「それはバッハ会長次第だけど……」

 実はこの頃には「バッハは任期を延長していくのではないか」という見方があった。一部のIOC理事から任期延長論がだされていたのだ。「バッハ任期延長論」を報じたメディアもあった。筆者もその可能性が頭にあった。

 だが、A氏の次の言葉は予想もしていない言葉だった。

「だけど、次はサマランチ・ジュニアで決定だよ」

 サマランチ・ジュニアとは現在、IOC副会長を務めているフアン・アントニオ・サマランチ・サリサチスのこと。もちろん、第7代IOC会長の息子だ。

「サマランチ会長」の息子フアン・アントニオ・サマランチ・ジュニアIOC副会長(写真:新華社/共同通信イメージズ)
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「サマランチは自分が引退したときに息子をIOC委員にさせた。そしてバッハを自分のすぐ後の会長にするのは露骨すぎて反対の声が上がりかねないと見て、まずはIOC委員たちに人望があるベルギーのジャック・ロゲ伯爵に会長を任せた。そして12年間会長を務めたロゲ伯爵が退任した後は、サマランチが狙ったように懐刀だったバッハが会長に就任した。

 サマランチはバッハに『息子のことは頼むぞ』と釘を刺していたということですよ」

パリ五輪開催を前に選手村を視察するIOCのバッハ会長(左)とサラマンチ・ジュニア副会長(写真:Xinhua/ABACA/共同通信イメージズ)
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 サマランチは01年に会長を退任するが、同じ年にサマランチと交代するようにジュニアはIOC委員となっている。IOCという国際的な組織の中で、笑ってしまうほどの「世襲」を行っていたのだ。そして会長職を退いてからは息子を将来IOCの会長にするための下工作をしていたとすれば凄い話ではないか。