「サマランチ会長が作った人脈は今も厳然として生きています。アフリカなどの途上国のIOC委員の票を握っていたのはサマランチであり、それが次期会長選でもものを言うような気がします。どのような飴を与えたのかは分かりませんが、サマランチが亡くなっても彼から恩恵を得ていた委員たちはジュニアが同じことをやってくれると思っているはずです」

 A氏からこれを聞いたのは1年前のこと。当時はにわかには信じられない話であった。だが任期延長が濃厚と見られていたバッハ会長がパリ五輪の終盤の8月10日に今期限りで退任すると宣言したことで、がぜん真実味を帯びてきた。

他の有力候補たち

 次期会長は来年3月のIOC総会において投票で選ばれる予定になっている。現在立候補が有力視されているのはイギリス人で世界陸上競技連盟のセバスチャン・コー会長、そして国際体操連盟会長の渡邊守成氏、国際自転車連合会長でフランス五輪委員会のダビッド・ラパルティアン氏、そして前述したようにIOC副会長に就いているサマランチ・ジュニアらの名が挙がっている。

 スポーツ紙のデスクは次のように言う。

「世界的に有名なのは中距離選手だったコー会長でしょう。人望もあって彼が会長職に就いてくれるならと思う委員は多いのではないですか。渡邊氏はIOC委員になったばかりですから立候補しても会長になるのは難しいのではないでしょうか。今回はまずは名前を売ろうという作戦なのではないかと思います。渡邊氏が勤務するイオングループがサポートするにしても、さすがに今回は無理だと思います」

 コー氏は確かに人気があるが、IOCの会長選挙を左右するのは人気ではなく、各IOC委員にとって誰が会長になれば自分の利になるのか、である。次の会長がジュニアとなれば「商業主義五輪」を完成させたサマランチは、死してもなおその影がIOCを支配しているということだろう。