昨年11月に来日し、国立競技場を視察したIOCのトーマス・バッハ会長(写真:長田洋平/アフロスポーツ)

(舛添 要一:国際政治学者)

 新型コロナウイルスの感染拡大は急速には収束せず、政府は、東京都、大阪府など9都道府県に発令されている緊急事態宣言を6月20日まで延長することを決めた。そのような状況下で、東京五輪を開催するのか中止するのか、内外で議論が高まっている。5月26日の朝日新聞は、「中止の決断を首相に求める」という社説を掲げ、国内のみならず、海外でも大きな反響を呼んでいる。

「1日100万回接種」には程遠い現状

 7月23日の開会式まで、もう2カ月を切っている。まさに時間との勝負である。公衆衛生の立場から言えば、開催には多くのリスクが伴うが、そのリスクを軽減する決め手はワクチン接種である。

 ところが、五輪開催都市である東京をはじめ、日本でのワクチン接種は遅々たるもので、やっと1000万回の接種が終わったところである。人口は1億2500万人なので、2億5000万回の接種が必要である。15歳未満は1500万人なので、これを差し引いても1億1000万人、つまり2億2000万回の接種となる。1回でも接種した人が5%未満、という数字は、先進民主主義国、とくにG7の中では極めて低い数字である。

 コロナ感染を収束させ、東京五輪を開催して成功させ、その余波で総選挙を乗り切って政権維持を図るというのが、菅義偉首相の戦略である。その戦略を可能にするのはワクチン接種しかない。東大の仲田泰祐准教授らのチームの分析によると、1日に100万回接種すれば、再度の緊急事態宣言は回避できるという。

 5月8日に彼らと面談した菅首相は、そのシミュレーションを基礎にして、「1日100万回の接種」の大号令をかけているのである。

 具体的には、24日から東京と大阪に自衛隊が運営する大規模ワクチン接種会場を開設した。また、ワクチンの打ち手不足解消のために、歯科医師、救命救急士、臨床検査技師など関連人材を動員するなど、がむしゃらに100万回ゴールの達成を目指している。しかし、今のところは、1日に50万回前後であり、目標にはほど遠い。