(黒木亮・作家)
筆者が住む英国は、国民の55.4%がコロナワクチンの1回目の接種を終え、2回接種した人の割合も31.2%に達している。ピーク時には1823人を記録した1日の死者数は7人程度にまで激減し、5月10日には、イングランド、スコットランド、北アイルランドでの死者数がゼロを記録した(ウェールズで4人)。1~2月に約4万人いた入院患者数は、5月17日の時点で939人となり、さらに減少中である。
これにともない、イングランドでは、ロックダウン(都市封鎖)が4段階に分けて緩和されているところだ。5月17日には第3段階として、パブ、レストラン、映画館などの屋内営業が再開され、屋内で最大6人あるいは2世帯まで集まることができ、同一世帯であれば外泊も許され、これまで違反すると5000ポンド(約77万円)の罰金だった海外旅行も解禁された。雇用情勢も改善し、2月から4月までの求人数(job vacancies)は65万7000人で、過去1年間で最高となった。
最大の懸念材料、インド変異株
しかし、多くの国民は、今も新型コロナに対する警戒心を解いていない。街ではマスクをしている人は多いし、バス、地下鉄、商店、各種施設内では今もマスク着用が義務付けられている。
公演を再開したロイヤル・オペラハウスもマスク着用で、各観客の左右の席を開けるために、予約の多くは最低2人1組かつ同居者でなくてはならない(1人1組だと採算が悪くなる)。レストランではNHS(国営医療サービス)の「Track and Trace」というスマホアプリを使って1人ずつ入店を記録する。休暇など不要不急の目的で海外旅行できる国はイスラエル、ポルトガル、オーストラリアなど「グリーン・リスト」の12カ国に限られ、出発前と帰国後に1回ずつ新型コロナの検査を受けなくてはならない。
日本の一部メディアは「ロンドンに人が戻った」と、人で混雑しているような街の映像を切り取って報じているが、テレワークの進展や観光客が途絶えたこともあり、ロンドン中心部の人出はコロナ禍前の1~2割にすぎない。ジョンソン首相は「今後の状況次第では、6月21日に予定されている第4段階の緩和を遅らせ、地域によってはロックダウンを再開する可能性もある」と警告している。