なお19日の記者会見に同席したジョナサン・ヴァン=タム次席医務官は、ワクチンの効果が出るのは1回目の接種から3週間後、2回目の接種によって免疫が強化されるのは接種後7~10日後である(したがってボルトンの入院患者の中には、効果が出る前に感染した者もいる可能性がある)こと、またワクチンの効果は各人の免疫系の強さなどによって個人差があると指摘した。

 同医務官は、ワクチンはウイルスに対して100%の防御を与えるわけではなく、常に相対的なものであり、海外の行先を国別に緑、アンバー(イギリス英語で「黄色」)、赤の3つに分けたのも「サメが1匹の池に飛び込むのと、100匹の池に飛び込むのとでは、噛みつかれる確率が違うから」と述べている(余談だが、このヴァン=タム氏は、リンカーンシャー州生まれだが、英国では珍しいベトナム系の人で、インフルエンザなどの感染症の専門家である)。

ヴァン=タム次席医務官からワクチンの接種を受けるハンコック保健相の様子を報じた地元紙の記事

ワクチン以外に打つ手のない変異株

 英国がこれだけワクチンを重視するのは、ロックダウンだけでは、変異株の感染を抑えられなかったからだ。

 最初のロックダウンは昨年3月23日に始まり、食料品店、薬局、病院、歯科医院、銀行、郵便局など、日常生活に必要不可欠な施設以外はすべて閉鎖された。外出は、(1)近所への生活必需品の購入、(2)1日1回の運動、(3)医療の必要、(4)真に自宅でできない仕事、の4つに限られ、とにかく「家にいろ」となった。当然、同居していなければ家族にも会えず、恋人や友人を訪ねることもできない。違反すると60ポンド(約9200円)の罰金で、繰り返すと最高で960ポンドを科された。理髪店も閉まっていたので、筆者はずっと散髪を家内にやってもらっていた。

 これにより感染者と死者数が相当減ったので、6月から7月にかけて多少ロックダウンが緩和された。ところが9月から再び感染者が急増したため、11月5日に再びロックダウンに入り、12月にほんの少し緩められたが、1月4日に3度目のロックダウンに突入し、今年4月12日まで続いた。

 この間、クリスマス前から英国型変異株が猛威をふるい、1日あたりの感染者数は今年1月前半には6万人を超え、1日あたりの死者数も1月20日に1823人を記録した。ロックダウン規制の取り締まりは非常に厳しく、スーパーの出入り口付近でマスクを顎の下までずり下げていた白人男性が手錠をかけられて3人の警官に床に押さえつけられ、100ポンドの罰金を科されたり、激しく呼吸をしながらジョギングしていた男性が、見回りをしていた自治体職員にジョギングを止めるよう勧告されて口論になったりして、社会に険悪な雰囲気まで漂った。こっそり営業していたバーの店主は1万ポンド(約154万円)の罰金、客は1人当たり500ポンドの罰金を科された。そこまでやっても感染者と死者の数が増えていたので、筆者自身も、いったい誰がどこで感染しているのか非常に疑問に思うとともに、変異株の感染力の強さを思い知らされた。日本で感染が増えているのはこの変異株のせいなので、先行きが懸念される。