米中、AI半導体の覇権競争が今後を左右

 インテルの先行きを考える際には、米政府の動きも無視できないでしょう。

 実は、米政府は2024年に入って、生成AIに関連するハイテク企業に相次いで巨額の資金援助を決定しています。その先陣がインテルでした。米国内での工場新設のためとして、85億ドルの補助金交付を決めたのです。また、補助金とは別に110億ドルの融資も決定しました。インテルへの支援は総額195億ドル(約3兆円)という巨額なものです。

 インテルはこれらの支援を含め、総額1000億ドル(約15兆円)を投じ、アリゾナ州やオハイオ州など米国内の4州で最先端の半導体工場を新設する構えです。

 米政府の支援はインテルにとどまりません。台湾のTSMC、韓国のサムスン電子、米のマイクロン・テクノロジーなどの半導体企業に、各社60億ドル強、日本円で1兆円規模の補助金交付を続々と決めたのです。

図:フロントラインプレス作成

 米政府の支援を受けた企業は、米国内で半導体の製造工場や開発拠点を新設していくことになります。とくにTSMCは世界最先端の半導体製品の製造を2020年代後半に米国内で開始させると表明しています。

 米政府の支援策は工場の新規開設によって雇用を増やし、経済の好循環を狙っているだけではありません。半導体はAIや兵器に欠かせない戦略物資ですが、これまで生産拠点は台湾など東南アジアに集中していました。

 米国の目的は、こうした生産・研究開発の拠点を米国内に移すことにより、来たるべき「AI全盛時代」の覇権を握ろうとしていることにあります。半導体製品のサプライチェーン(供給網)を米国内で完結させることは、経済安全保障の考えにも合致しているのです。

 そうした流れのなかで、「インテル・ショック」を引き起こした名門企業は、どんな姿に変わっていくのでしょうか。“蚊帳の外”感の漂う日本も無関心ではいられません。

フロントラインプレス
「誰も知らない世界を 誰もが知る世界に」を掲げる取材記者グループ(代表=高田昌幸・東京都市大学メディア情報学部教授)。2019年に合同会社を設立し、正式に発足。調査報道や手触り感のあるルポを軸に、新しいかたちでニュースを世に送り出す。取材記者や写真家、研究者ら約30人が参加。調査報道については主に「スローニュース」で、ルポや深掘り記事は主に「Yahoo!ニュース オリジナル特集」で発表。その他、東洋経済オンラインなど国内主要メディアでも記事を発表している。