パリオリンピックで、テレビなどのメディアは日本人選手のメダル獲得に狂喜乱舞した。だが、視聴者の「受け」がよさそうな題材ばかりを取り上げる報道ぶりはテレビのポピュリズム化をあらためて浮き彫りにした。足元では自民党総裁選に関するニュースが連日取り上げられているが、テレビジャーナリズムの真価が問われている。
(岡部 隆明:就職コンサルタント、元テレビ朝日人事部長)
「追加利上げ」「ハマス指導者殺害」よりもメダリスト帰国が大事か?
開会式翌日に柔道女子48キロ級の角田夏実選手が金メダルを獲得し、一気に盛り上がったパリオリンピック。その期間中の7月31日に放送された某局の夕方ニュース番組に対し、私は「指導」を与えたい気持ちになりました。
この日は、「日銀が政策金利を0.25%程度に引き上げる追加利上げを決めた」という大きなニュースがありました。夕方のニュースではタイムリーな話題であり、トップで伝えられるだろうと想像していました。また、海外では「イスラム組織ハマスの最高指導者が殺害された」という衝撃的なニュースもありました。
ところがです。
某局の夕方ニュースが始まると、映し出されたのは空港の通路の壁でした。そしてキャスターがこう、まくしたてました。
「速報です!スケートボードの代表団が凱旋帰国です!」
上機嫌なキャスターの言葉とは裏腹に、タイミングが悪かったのか選手団は姿を現さず、壁をひたすら映していました。スポーツ音痴の私は、ニュース番組冒頭から「凱旋」も、ましてや「壁」も見たくはなかったのですが、この先どうなるのか興味もあり、チャンネルをそのままにしておきました。
結局、「凱旋」はない様子で、前日のオリンピックの結果が、次のニュースとして伝えられました。国民生活に影響するはずの「追加利上げ」は番組が始まってから17分後、混迷する中東情勢を左右する「ハマス最高指導者の殺害」は、そこからさらに22分後に伝えられたのです。
ほかに大事なニュースがあるのにオリンピック期間は、五輪関連を最優先に、最大限に扱うというのは、節度を欠いています。本来のニュース番組の役割を果たしていないと言わざるを得ません。