国民のもどかしい思いは、「政治とカネ」の問題と政治資金規正法改正についても沈殿しています。これらは今回の総裁選のテーマでもあり、テレビ報道では冷徹に伝えなければなりません。

 候補者の「絵になるシーン」ばかり追いかけたり、まるで競馬の予想やタレントの人気投票のようにエンターテインメントにしたりしがちです。次の総選挙で勝つための論理が強く働くのは必至ですが、国民の生活向上にどれほど真摯な眼差しが向けられるのか…。永田町の行動原理の本質に迫れるかどうか、テレビジャーナリズムの真価が問われていると思います。

戦火が消えない中で、聖火が燃えたパリ五輪

 パリオリンピックでポピュリズムに傾く報道ぶりを見て、私はある歌の歌詞を思い出しました。シンガーソングライターである井上陽水さんの『最後のニュース』です。

 この歌は、自然環境など地球上のさまざまな問題を皮肉交じりに突きつけています。そして、終盤に「いつの日か、世界の“人”と“愛”と“金”が混ざり合うことがあるのだろうか?」といった内容で、平和な世界の到来の可能性について懐疑的に問いかけています。

 金と利権にまみれた前回の東京オリンピックの例を出すまでもなく、昨今のオリンピックは商業主義が指摘され、莫大な「カネ」が行き来しています。また、世界中から多くの人々が集まり、競技を通じて感動や愛が生まれたのも事実でしょう。そういう意味ではパリオリンピックで、人と愛と金が混ざり合ったと言えます。

 しかし、それは一過性な融合であって、「平和の祭典」が終われば、雲散霧消してしまうようなはかなさを帯びています。そもそも、ロシアとウクライナの紛争、イスラエルとイスラム組織ハマスの戦闘が繰り広げられている、その地続きのパリでの開催でした。戦火が消えない中で、聖火が燃えていることに矛盾を感じますが、これが現実なのだと受けとめるしかありませんでした。

 『最後のニュース』は、1989年10月にスタートしたTBSの報道番組『筑紫哲也 NEWS23』の初期のエンディングテーマ曲でした。1989年といえば、日本では元号が昭和から平成に変わり、世界では、ベルリンの壁の崩壊、天安門事件が起きた激動の年でした。

 当時、私は大学生で、久米宏さんがメインキャスターを務めるテレビ朝日の『ニュースステーション』と『筑紫哲也 NEWS23』を見るのが日課になっていました。ポピュリズムに流されない、そんな骨太なニュース番組が懐かしく感じています。