途中に座っていた男性に頭を下げたが、男性は返事もしない。その男性は静かに言った。

「僕は慰霊式には出ないよ。この一年は何も手につかず、ただぼんやりとしているばかりで……。今日はひとり静かにここで祈りたいんだ」

8合目付近で独り祈る男性。私は慰霊祭には出ない。ここで祈るばかりですと言った(写真:橋本 昇)
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そこかしこで遺族の慟哭

 尾根では花や菓子を手にした大勢の人が、それぞれに亡き人を偲んでいた。

 数珠を手に祈る老夫婦、故人と酒を酌み交わす人、号泣する女性。悲しみは未だ癒えるはずもなく、至る所から漂う線香の煙が尾根を流れていった。

夫の名前を見つけ号泣する女性(写真:橋本 昇)
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