(フォトグラファー:橋本 昇)
空腹すぎて、畑から盗んだ土まみれの大根をそのまま…
彼の金への執着は尋常ではなかった。闇金融業で財を築いた杉山治夫氏のことだ。
闇金融、略して「闇金」とは、どこからも金を借りる術がなくなった人たちが最後に駆け込む金貸しのことだが、当然のことながら利息は法外なものとなる。トイチ(10日で1割)という言葉は有名だが、週倍(1週間で倍)、ヒサン(1日で3割)まであるという。つまりは人の弱みに付け込む悪徳金貸しだ。そして、この1990年代の初めまでは世の中の裏でひっそりと営業していた闇金を、その派手なパフォーマンスで一躍万人に知らしめたのが、杉山治夫氏と言っていい。
彼の生い立ちは貧しさを通り越して悲惨だった。1938年に高知市で生まれたが、船員の父親は博打と酒に溺れ家庭は崩壊していたという。家族は農家の納屋で食うや食わずの生活を送っていた。彼はまともに小学校にも通学できず、空きっ腹を抱えて畑泥棒を繰り返す毎日だったという。
「腹が空き過ぎて畑から大根を引き抜いて泥が付いたまま食ったんや。口の中がじゃりじゃりしたけど空きっ腹に染み渡ったよ。わかるか? その時の小僧の姿が。俺の胃袋があれも食えこれも食えと泣くんや」
杉山氏はそう述懐した。
「風呂にも入れず、垢まみれで服は黒光りしとった。ルンペン(乞食)のガキやな」