『ブルーマリッジ』に込めたギミック

──ポリティカル・コレクトネスのような文脈では、善悪の定義がやや強引に規定されますが、ポリコレによる救いと、(実は不当な)攻撃の道具としてのポリコレが複雑に交錯しながら使用されることに、現代人の巧妙さがあるとも読みながら感じました。

カツセ:「そんなルールいまさら言われたって遅いよ」というのが、上の世代の意見だと思います。でも、そのルールが明文化されたことによって「私がされたあれは被害だったんだ」って思うこと自体は悪いことじゃないと思います。むしろ「悲しんで良かったんだ」という被害の肯定になる。

「あれは悲しむべきところだったんだ」って思える人が増えることは、僕の中ではすごく大事なことで、その数が増えていけば「もう傷つけないように生きよう」「傷つかないように生きよう」と思えていくと思うので、「行き過ぎたポリコレ」や「行き過ぎたフェミニズム」は存在しないと思いますね。

「ポリコレを巧妙に利用する人」というのも、実際には見たことがありません。ネットの中には、そういう雰囲気の方はいます。でも、その人がどんな傷を持っているのかを僕らは知ることができない。その人の傷を見ることができないのであれば、その人が言っていることをいったんはそのまま受け取るしかないのかなと思います。

──登場人物が感じたこと・考えたことを、ここまでは書くけれど、それ以上は書かないという心理描写の加減が絶妙で独特だと思いました。心の動きをどこまで説明するか、ご自身の中でどのように悩みながら物語を書かれているのでしょうか?

カツセ:最初は、現状の1.4倍ぐらいの分量で心理描写を書きましたが、担当編集者とやり取りする中で「ここはもっと減らそう」という話になっていきました。特に土方のパートでそぎ落としが多かったですね。

 土方も主人公の1人なので、最初はもっとたくさん心理描写を書き込んでいましたが、彼の心理描写は後半になってからじわじわと出していく形の方が共感しやすくなる。そういうことを1つのギミックとして入れています。

 読んでいただけると分かると思いますが、序盤は本当に心理描写がなく、展開だけがひたすら進んでいく。ところが、後半になって「彼は本当はこんなことを思っていた」「彼も人間だった」と、土方の別の一面も明らかになっていく。それはまさに心理描写の引き算の結果でした。なので、言及していただいて嬉しいです。

──引くって辛くないですか?

カツセ:辛いです! これは心理描写に限らず、物語の展開もそうですが、一度作ったものを引き算するのはしんどかったですね。でも、作品としてベストな形にすることを目標に作ったので、いまの形で良かったと思います。

──僕はこの物語を読んで、登場人物1人ずつにインタビューしたいと思いました。

カツセ:その感想は嬉しいですね。

──「あなたこんなこと言っているけれど、あなただって本当は......」と全員に突っ込みたくなりました。

カツセ:この物語は、その「あなただって本当は」をずっと言い合っていく話ですよね。「あなたはこんな風に正義を振りかざしているけれど、あなたにもこういう面はあるよね」をお互いに言い合っていくことでだんだんシリアスになっていく。「思い当たる節あるな」とヒリヒリさせることができるとすれば、そういう部分だと思います。

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長野光(ながの・ひかる)
ビデオジャーナリスト
高校卒業後に渡米、米ラトガーズ大学卒業(専攻は美術)。芸術家のアシスタント、テレビ番組制作会社、日経BPニューヨーク支局記者、市場調査会社などを経て独立。JBpressの動画シリーズ「Straight Talk」リポーター。YouTubeチャンネル「著者が語る」を運営し、本の著者にインタビューしている。