パワハラを受けた人が自分の後輩や同僚にもパワハラをしてしまうケースはしばしばある(写真:beauty_box/イメージマート)パワハラを受けた人が自分の後輩や同僚にもパワハラをしてしまうケースはしばしばある(写真:beauty_box/イメージマート)

 職場の人間関係が最大のストレスと語る人は少なくない。職場の問題児を変える術はあるのか。職場の問題児はどう扱ったらいいのか。『職場を腐らせる人たち』(講談社)を上梓した精神科医の片田珠美氏に聞いた。(聞き手:長野光、ビデオジャーナリスト)

──上司や同僚からパワハラを受けた人が、やがて自分の後輩や同僚にも同じパワハラを行う「攻撃者との同一視」というメカニズムについて説明されています。人はなぜ、自分がされた嫌なことを他の人にもしてしまうのでしょうか?

片田珠美氏(以下、片田):非常に悲しいことですが、これは職場に限らず、どんな場面でも見られることです。

 たとえば、親から虐待を受けて育った子どもが「自分はあんな親にはならない」と心に誓ったつもりが、自分が親になったら同じ虐待を我が子にしてしまう。このような虐待の連鎖はしばしば起こります。

 学校でイジメを受けた子が、自分よりも弱い子に対してイジメを行うこともよくあることです。体育会系の世界で、先輩からイジメに近いシゴキを受けた人が後輩に同じことをする。これもよくあることです。

「自分もやられたのだから、同じことをやってもいい」と正当化する。イジメやパワハラが代々受け継がれるのはこのためです。

 最近の事例では、宝塚歌劇団で飛び降り自殺がありました。その後、元宝塚の方々が少しずつ自分が知っている内実を語り始めていますが、先輩からされたひどい仕打ちを後輩にしてしまう連鎖があったのではないかと私は推測しています。

「自分がされて嫌なことは人にしてはならない」ということは、誰だって頭では分かっていますが、それでも同じ過ちを繰り返すのが人間という動物です。

 それがなぜなのかというと、自分が感じた不安や怒り、屈辱感や無力感を乗り越えるためには、自分より弱い者に対して同じことを行い、自分が攻撃者の立場になって自分の力を実感することでしか乗り越えられないからです。ものすごく悲しい人間の本性ですね。

──「自分がされた嫌なことを他の人にしない」と決め、実際にしないことも可能ですよね。

片田:可能です。4月に「田村淳のNewsCLUB」(文化放送)というラジオ番組に出演した時に、同じように「攻撃者との同一視」が話題になりました。

 その時に、田村さんの高校時代の実話が出ました。田村さんは高校時代にバスケ部に在籍していて、代々、先輩がひどいシゴキを後輩にしていたのだけれど、「自分たちの代でお終いにしよう」と仲間内で決めて、後輩には同じことはしなかったそうです。

 それぞれ個人が「自分のところまでにしよう」と決心すれば、負の連鎖を断ち切ることは可能です。でも、人間は弱いし、失われた尊厳をどうしても取り戻したいという心のメカニズムが働くので、知らず知らずのうちにやってしまうことがある。そこが、人間の恐ろしいところです。