上司への怒りを別の人に向けてしまう「置き換え」とは

──よく自分の部下の行動を事細かに管理しようとするマイクロマネジメントが問題になります。これも問題としては似たようなものがありますか?

片田:あります。たとえば、自分の子どもの行動をすべて把握して、思い通りに動かないと気が済まない人などです。そのような人は支配欲求が強い。

 細かいことにこだわる人も同じように支配欲求が強いと言えます。支配欲求が強い人は、根底に強い喪失不安を抱えています。だから過剰なまでに支配して、思い通りにコントロールしようとする。

──やっている本人はなかなか気づかないものですか?

片田:気づいていたら、恥ずかしいと思ってやめると思います。今回の本がテーマにしている「職場を腐らせる人たち」の多くは自覚がありません。「自分にはこのような困ったところがある」という自覚があれば直すことができますが、そうでなければなかなか直すことはできません。

──怒りや不満の原因である当の相手が恐くて、言い返すことも反撃することもできない場合、その矛先を転換して別の対象に向け変えることを精神分析では「置き換え」と呼ぶ、と書かれています。「誰でも知らず知らずのうちにやっている」ということですが、自分が置き換えによって何か理不尽なことをしていないか、自己チェックする良い方法はありますか?

片田:置き換えはどこにでもあるメカニズムです。上司から日々、ひどく叱責されたり、パワハラ的な対応を受けたりして、怒りとストレスが溜まっている。でも、上司が恐くて言い返せない。

 そんな時に、上司に対する怒りを自分の後輩やもっと弱い立場の人、アルバイトやパートなどに向ける。それが置き換えです。実は、みんな知らず知らずのうちにそういうことをやっています。

 自分がそういうことをやっていないかをチェックするためには「自分がストレスを溜め込んでいないか」と振り返ることが必要です。誰かに対して怒りを感じているのに、その気持ちを押し殺してはいないか。問題は怒りの抑圧です。精神分析では「抑圧されたものは必ず回帰する」と言われています。

──恐いですね。

片田:怒りを抑圧していると、それはどこかで別の形で出ます。

 たとえば、怒りの原因である上司には恐くて何も言えないので、もっと弱い者へ向かう。前述の「攻撃者との同一視」にしても同じです。先輩には抵抗できなかったけれど、先輩からされた嫌なことを次の代にやってしまう。ですから、自分より弱い立場の人に対してひどいことをしていないか、必ず振り返ることが必要です。

──抑圧したものを、自分の中だけに抑圧し続けたらどうなるのですか?