部下や同僚に過剰な根性論を押しつける人の精神状態

──部下や同僚などに過剰な根性論を押しつける人は「躁的防衛(manic defense)」による軽躁状態の可能性があると書かれています。

片田:「気合いだ」「根性だ」という人はどこにでもいます。特に一定の世代以上に多いような気もします。こういうやたらと根性論を強要する人の中には、躁的防衛の結果、気分が高揚した状態「軽躁状態(hypomanic state)」になっている人がいます。

 もし自分の部署の売り上げが上がらなければ、上司から怒られるかもしれない。場合によっては降格されるかもしれない。最悪の場合、解雇されるかもしれない。そのような喪失不安がある場合に、空元気を出すというか、気分を高揚させて多動になり、そうすることによって自分の不安を紛らわそうとする場合があります。

 一つの例に「葬式躁病」と呼ばれる状態があります。自分の大切な人を亡くし、すごく大きな喪失体験に直面して、本当ならば落ち込むはずが、逆に葬式ですごく元気になり、たくさん動き回ったり、喋りまくったりする状態のことです。

 これは一種の躁的防衛です。自分にとって大変な状況が起こると、動きまくり、喋りまくる。こうした現象を精神医学では「多弁・多動」と言います。そのような行動によって不安を紛らわせ、自分を守ろうとしているのです。

──躁的防衛には、反動で落ち込むフェーズもありますか?

片田:あります。だから恐いのです。落ち込むばかりではなく、躁的防衛によって感情がひどく高揚し、暴走してしまうこともあります。暴言を吐いたり、暴力行為に発展したりする人もおり、こうした副作用もまた危険です。

──細かい部分を完璧にすることにこだわる完璧主義者が、部下にも同じ姿勢を求め、疲弊させるというケースもしばしばあります。細かなことに必要以上にこだわるのは、大きな問題から目をそらす現実逃避という可能性もあるのでしょうか。

片田:細かいことに必要以上にこだわる人はどこにでもいます。本でも書きましたが、某銀行の某支店の支店長は、ハンコの押し方のわずかな角度や付箋の張り方が違うと言って長いこと叱責したり、カレンダーのページを1枚めくり忘れていただけで激高したりと、ものすごく細かいことにこだわるそうです。

 こういう方は、おっしゃるように現実逃避の面があります。「売り上げが上がっていない」「業績が上がっていない」など、本質的な問題から目をそらしたいから細かいことにこだわるのです。

 では、なぜそうなるのか。こういう人の多くは、新しいものを生み出すことができないのです。つまり、売り上げや業績を上げるために、どんな工夫や取り組みができるのか、アイデアが浮かばない。

 でも、それで管理職の自分が馬鹿だと思われるわけにはいきません。自分の責任にされたらかなわない。だから、解決法を提案できない分、部下を叱責することに労力を注ぐ。

「私はこんなことに気づける」「修正してやっている」「だから自分の存在は必要なのだ」という理屈で、他人の粗を見つけて指摘し続けることで、存在感を誇示しようとするのです。