「これが加害なら、俺だって加害だったかも」

カツセ:構成の段階では何度も打順の入れ替えがありました。最初は土方から始まる話でしたが、もう一人の主人公で20代の雨宮くんからのスタートに変えました。他の登場人物も同じように、登場するタイミングをがちゃがちゃ入れ替える作業が1年くらいありました。改稿作業は本当に苦痛でした。

 特に土方は物語の中でかかわる人の数が多いので、どの時期にどういう行いをしていたかが、後から分かるようになっています。順番によって、彼が気づくたびにどこまで反省していくのか、どのように変化するのという点を整理するために、構成や順序とは別に、人間関係の図のようなものを作って検討しました。

──「この時期にどういう行いをしていたか」ということですが、そのように過去にまで遡って、誰にどういう発言や行動をしていたかを検問していくようなことがどんどん行われたら、かなり息苦しい世の中になりますよね。そういう不安のようなものが込められているのですか?

カツセ:すでにそういう時代になっていると感じています。特に多いのは男性だと思いますが、あの時代だったら許されていた加害が、掘り起こされたら大変だという感覚を皆が共有するようになりました。それでも、自分の加害性に気づけるならまだマシなほうなのだと思います。

 自分を振り返っても、「あれは良くなかったな」と思い出すことはあります。本など読みながら、「これが加害なら、俺だって加害だったかも」となった時に、その事実をいかに受け入れてこれから生きていけばいいのか。そういうことをテーマに書きたかったのです。

 でも、過去を振り返り、してしまった悪かったことをいまから被害者を訪れて謝罪するのもヘンじゃないですか。いまさら「あの時いじめていてごめんね」みたいなことを言いに行くとしたら、それは謝りたいのではなくて、許されたいだけだと思います。

 不祥事が取り沙汰されるたび、謝ることが問題になりますが、謝るのは許されたいからであって、本当はもっと深いところでの反省が必要で、謝ったらすべてクリーンになり、これからは楽しく生きていけるということではありません。

 僕自身これを書きながら、これで過去が清算されたとは1ミリも思っていません。ずっとこれを抱えてこれからも生きていく悩みのようなものを改めて感じました。

「#MeToo」運動のきっかけとなった元映画プロデューサーのハーヴェイ・ワインスタイン受刑者。権勢を誇っていた時の面影はどこにもない(写真:代表撮影/ロイター/アフロ)「#MeToo」運動のきっかけとなった元映画プロデューサーのハーヴェイ・ワインスタイン受刑者。権勢を誇っていた時の面影はどこにもない(写真:代表撮影/ロイター/アフロ)
死後、自社のタレントに対する性加害が露顕したジャニー喜多川氏(写真:共同通信社)死後、自社のタレントに対する性加害が露顕したジャニー喜多川氏(写真:共同通信社)
ネットフリックスの「ハウス・オブ・カード」などで活躍した俳優ケビン・スペーシーの現在。男性に対するセクハラや性的暴行でそのキャリアを汚した(写真:The Mega Agency/アフロ)ネットフリックスの「ハウス・オブ・カード」などで活躍した俳優ケビン・スペーシーの現在。男性に対するセクハラや性的暴行でそのキャリアを汚した(写真:The Mega Agency/アフロ)
自身が監督を務めた作品で出演者にわいせつな行為をしたとして、警視庁に準強姦で再逮捕された榊英雄被告(逮捕は4回目)。榊被告は容疑を否認している。*写真は2013年当時のもの(写真:Rodrigo Reyes Marin/アフロ)自身が監督を務めた作品で出演者にわいせつな行為をしたとして、警視庁に準強姦で再逮捕された榊英雄被告(逮捕は4回目)。榊被告は容疑を否認している。*写真は2013年当時のもの(写真:Rodrigo Reyes Marin/アフロ)
女性記者に対するセクハラ発言で辞任した福田淳一前財務次官(写真:共同通信社)女性記者に対するセクハラ発言で辞任した当時の福田淳一前財務次官(写真:共同通信社)