ホワイトボックスに投稿されるメッセージの破壊力

カツセ:ホワイトボックスとは、物語に登場する企業の中で、ハラスメントなどに関する相談を被害者が匿名で人事部にメッセージを送ることができる相談ボックスです。

「どこか恐るべき印象」を持ったということは、どちらかというと加害者側の意見ですよね(笑)。被害者の立場からすれば、これができたことで「自分は救われるかもしれない」と思える。助けになってくれるものだと思います。

 多くの企業には、こうしたホットラインがありますが、もしそれがなくても問題のない職場があるとしたら、相当に風通しのいい職場なのかもしれません。本来は人事や上司に直接相談すればいいことですから。

 小説ではホワイトボックスに投稿されたメッセージを本人の文章そのままという形で書くことで、切実さや会社に助けを求める切迫感をより強調でき、場面の転換という意味でも効果的と考えました。

──通常、文学作品において、被害者かもしれない人の言葉があんなにストレートにきっちり書かれることはないので、ものすごい破壊力ですよね。物語の方向性があそこですっかり変わったという印象を受けました。

カツセ:少し大きな展開がないと、飽きずに読んでもらうのは難しい時代です。ネットフリックスでも何でも、面白いコンテンツが並ぶ中で、小説をいかに読ませるかと考えると、ハードルはとても高い。そうした中で1冊楽しいと思わせる工夫を考えたかったのです。それをホワイトボックスという形に込めています。

 一章がまるまる1つの投稿文だけに割かれていて、そこで、女性社員が上司からのハラスメント疑惑を告白している。これは相当に重い。

 書いている本人がどのように迷いながら書いているのか。自分はそれを書いたことによって新たなハラスメントを受けるのか。それとも、ちゃんと救済されるのか。その迷いを込めながら書くことには苦労しました。

──この物語には、土方剛という中年の人物が登場します。彼の高圧的な態度こそ、いま世の中が最も嫌いがちな対象だと思います。同時に、土方剛をただ排斥する世の中にも違和感を覚えます。土方剛という人物に、カツセさんは何をお感じになりますか?