しかし、300kmという短射程であっても弾道ミサイルの飛翔経路の大半は、空力操舵の不可能な宇宙空間です。高度20kmを飛べる飛行機はほとんどありません。射程300kmを飛翔するATACMSの最高高度は100kmを優に超えます。

 結果的に、GPSでの軌道修正は、飛翔の後半、落下し空力操舵が可能となる概ね30km以下で行われることになります。この高度まで落下してから、GPSによって軌道修正を始めるのです。

 一方、S-300系ミサイルの対処可能高度も30km以下です。一部のミサイルには、サイドスラスターを装備したものもありますが、サイドスラスターは基本的にミサイルの姿勢を変えるものでしかありません。ミサイルの進行方向を修正するためには空力に頼らざるを得ないため、サイドスラスターを装備していても、ある程度空気が存在する高度でなければ機動できません。

 空気の希薄な宇宙空間でミサイルが軌道を変更するためには、THAADミサイルのようにサイドスラスター(ミサイルを横方向に動かすための動力装置)に加え、スラストベクタリング(推力の向きを偏向させる)機構を装備し、キルビークルから使用済みロケットモーターを切り離す機構が必要です。

 つまり、高度30km以下のS-300系SAMミサイル弾が機動できる範囲は、ATACMSが目標に命中するために軌道変更を行う領域でもあるのです。

 その軌道修正の理由が命中させるためであっても、軌道変更を行えば、それは迎撃ミサイルに対する回避行動となります。そして、高度100km以上から落下してくるATACMSが、高度30km以下の操舵可能な領域を通過する時間は30秒ほどしかありません。

 しかし、ATACMSも命中直前まで機動するはずはありません。最終的には目標に命中させるため直線的に突入せざるを得ないためです。そのため、ATACMSを迎撃するためには、低層で迎撃をすることが好ましいと言えますが、S-300系SAMは、長射程性能を追求しているため、この低層での迎撃性能が不足している可能性があります。

装備されていなかった9M96系ミサイル弾

 長射程性能を追求すると、ミサイルは必然的に大型にならざるを得ません。すると、加速性能が悪化し、十分な機動性能を発揮するための速度に達するまでに時間を要してしまいます。冒頭で貼ったXのポストを見ても、発射されたミサイルの加速が鋭いとは言えません。

 パトリオットPAC-3は、そうした問題を乗り越え低層での迎撃も念頭に置いて開発されています。ミサイルのサイズは小さく、PAC-2弾と比較して射程は減少していますが、発射直後から加速が凄まじく、発射から間もなくしてミサイルを機動させるために十分な速度まで加速します。