S-300系SAMの脆弱性

 アメリカが、射程300kmのATACMSを供与して以降、ロシアのS-300系SAM(S-300、S-400、S-500)が、相次いで撃破される事態となっています。

 S-300と同レベルの性能と言われるパトリオットの運用に関わっていた筆者からすると、これは少々意外でした。S-300系SAMが、本当にパトリオット並みの性能を持っているのならば、そう簡単に撃破されることはないと思っていたからです。事実、パトリオットの方は、ATACMS以上の射程を持つロシアの短距離弾道ミサイルであるイスカンデルであっても迎撃しています。一部のパトリオット車両が被害を受けたという情報もあるものの、戦闘能力を失う事態にはなっていません。

 ロシアはS-300系SAMを大量に保有しているだけでなく、海外へも多く売り込んでいます。S-300系SAMを「カタログスペックだけのポンコツ」だとする主張もありますが、それらの国は当然カタログデータだけで購入を決めたはずはありません。実射テストの結果も見た上で購入を決めているはずです。

 しかし、S-300系SAMは多数が撃破されています。実際に撃破されている以上、S-300系SAMには何らかの弱点があり、そこを突かれたと考えることが妥当です。

 最近になって、その弱点を考察するために役立つと思われる映像が公開されました。それは、今年5月に、ドネツク地方の占領地にロシアが展開させていた「S-400」をATACMSが破壊した際のドローンによる空撮映像です。

 この映像では、S-400は交戦しており、接近していたATACMSに対しても交戦していたと思われます。画面の左と、奥側に向けても交戦しているため、2方向からの攻撃がなされたのでしょう。

 S-400は、複数のミサイル弾種を運用できますが、このS-400が破壊された後の映像も確認されており、使用していたミサイル弾種をある程度絞ることができます。

 破壊された発射機に搭載されていたキャニスター、発射されずに破壊されたミサイルの残骸、それにドローン映像に撮影されていた発射時の噴煙から、サイズの小さな9M96系ミサイルではなく、S-400用のミサイル弾としてオーソドックスな48N6系ミサイルを使用していたと思われます。

 この場合、誘導方式はセミアクティブレーダーホーミングであり、ATACMSなどの弾道ミサイルと交戦するためには、交戦用レーダーを目標方向に停止させて戦闘する必要があった可能性が大です。S-400の交戦用レーダーは、回転させながら運用させることもできるようですが、ATACMSのような弾道ミサイル相手では、回転させたままでは、目標の位置情報更新が遅れ、命中率が極端に低下する可能性が高いからです。

 ドローン映像を見る限り、最初は画面左奥からの目標に対し交戦しています。後半で画面奥からの目標に対して交戦していますが、画面奥からのATACMSに対する交戦開始が遅れ、迎撃に失敗したのかもしれません。