サイドスラスターについても、空気の薄い高空での作動用と言われますが、キャニスターから飛び出した直後の低速状態でも初期飛翔方位を調整するために使用されるように、反応速度の短い、つまり素早い操舵機構として装備されています。

 ロシアの技術者も、このS-300系ミサイルの弱点は認識していました。そのため、S-400用のミサイルとして小型で射程は短いものの、低層での弾道ミサイル迎撃に向いた9M96系ミサイル弾が開発されています。PAC-3弾を真似たと言えるでしょう。

 しかし、冒頭に埋め込んだXのポストに映されていたS-400は、この9M96系ミサイル弾を装備していなかったようです。

 9M96系ミサイル弾は、その他のミサイル弾を入れるキャニスターに4本のミサイルを格納できますが、破壊されたS-400ユニットの映像に、それらしきものは確認できません。

 ATACMSで狙われることは分かっているのですから、まだ保有弾があるなら配備すべきです。既に9M96系ミサイル弾は枯渇している可能性があります。

 さらに、このS-300系SAMでATACMSを迎撃する場合、低層での撃破を狙った方が良いということは、当然ながらS-500でも共通です。

 しかし、S-500は、この問題に対してはS-400よりも弱点を多く抱えていると言えます。先に述べたようにS-500は、S-300V系を発展させ、射程1000kmを上回る準中距離弾道ミサイルの迎撃を強く狙ったものです。そのため、ATACMSが機動を始める前の高高度で迎撃できる可能性は高いのですが、ミサイル弾は、他のS-300系ミサイル弾よりもさらに巨大で、ATACMSが大気圏に突入し、機動を始めてしまうと対処不可能となる可能性さえあります。

 S-500は、ATACMSに対し、S-400以上に脆弱な可能性がある・・・と指摘するつもりだったのですが、指摘する前に破壊されてしまいました。

ロシアの防空網が崩壊する可能性も

「S-400は2方向からの同時攻撃に対して脆弱な可能性があり、ウクライナがその弱点を突いた」「S-300系SAMは長射程性能を追求しているため、低層での迎撃性能が不足している」という以上の2つの可能性は、公開された映像から推定できるS-300系SAMが撃破されている原因に対する考察です。これ以外にも、S-300系SAMが相次いで撃破されている原因があるかもしれません。

 しかし、それが推定できるようになる前に、ロシアの防空網が崩壊するかもしれません。それには、ATACMS以外の供与兵器やウクライナが独自に開発した兵器が関係しています。これについては、別の機会にまとめたいと思います。