1つは、パトリオットに弾道ミサイル能力を付与するために標的として使用されたものがランスミサイルだったこと。

 もう1つは、対ランスを想定して、弾道ミサイル能力付与を考慮されたロシアのミサイルが、S-300系SAMのS-300Pシリーズだったからです。そして、このS-300Pの改良発展型としてS-400が作られています。

 なお、S-300P以外の有力系統は「S-300V」となります。こちらは、準中距離弾道ミサイルである「パーシングⅡ」の迎撃を念頭に開発されています。パーシングⅡは核搭載が前提で、射程1700kmでした。このS-300Vの発展改良型がS-500です。

 この点を考えれば、S-300VとS-500は別として、S-300PとS-400は、ランスに対しては十分な迎撃能力があると思われます。

 そして、このことを踏まえれば、S-300PとS-400は、ATACMSに対しても相応の迎撃能力があるはずです。何せ、ATACMSブロック1は、誘導装置の精度こそ上がったものの、GPS誘導能力はなく、その弾道経路もランスと大差なかったからです。

射程が延伸されGPS誘導が加わったATACMS

 では、なぜそれらのSAMが相次いで撃破されているのか。

 注目すべきは、ATACMSがブロック1から「ブロック1A」にバージョンアップした際、射程が300kmに延伸されていることです。

 数値的には倍加ですが、射程が500kmにも及ぶと言われるイスカンデルよりも射程が短く、パトリオットがイスカンデルを迎撃していることから考えても、射程が300kmであれば、S-300系SAMの最新バージョンであれば、十分に迎撃できると思われます。しかし、実際にはS-300系SAMが撃破されています。

 ここでさらに見逃してはならない点は、ATACMSがバージョンアップした際に、射程が伸ばされるだけでなく、GPS誘導が追加されたことです。

 慣性誘導では、射程が伸びるに従って微妙な誤差が大きな影響を及ぼします。もちろん慣性誘導装置の精度も上がっていますが、仮に同じ慣性誘導装置を備えていた場合、ATACMSのブロック1からブロック1Aにバージョンアップし、射程が倍加したことで、着弾時の誤差も倍加してしまうのです。

 ブロック1Aでは、これを修正するためにGPS誘導が追加されました。GPSは、ミサイルの飛翔段階のどこであっても、ズレが大きければミサイルの軌道を修正させようとします。