(写真:FREEPIK2/Shutterstock.com)

(舛添 要一:国際政治学者)

 ヨーロッパの政治が揺れている。6月30日に投票が行われたフランスの国民議会選挙では、極右の国民連合(RN)が第一党になった。オランダでは、極右で第一党の自由党(PVV)が主導する連立政権が7月2日に発足した。7月4日に総選挙が実施されたイギリスでは、14年間政権の座にあった保守党が大惨敗を喫し、労働党に政権が移ることになった。

英国の下院総選挙で与党・保守党が労働党に惨敗。首相の座を労働党のスターマー党首に渡すこととなった保守党党首のスナク首相(ロイター=共同)
拡大画像表示

 この3カ国の選挙制度は異なるが、それぞれの仕組みは政治にどのような影響を与えているのだろうか。そして、日本の場合はどうなのであろうか。

小選挙区制の政権交代効果

 政治学の教科書的な話をすると、イギリスが採用している小選挙区制は、1選挙区から1人のみ当選する。選挙区も小さいので、選挙費用もあまりかからない。

 若い頃、イギリスで候補者に同行して選挙活動を取材したことがあるが、戸別訪問が主で、選挙費用について尋ねると、カネはあまりかからないが、歩き回るので靴がボロボロになり、何足も必要になると答えてくれたのを記憶している。

 小選挙区制は、1票差でも当選するので、民意の変化が劇的に反映されて、政権交代が起きやすい。しかし、たとえば、5000票と4999票という選挙結果になったときには、4999票は死票となってしまう。つまり、当選する1位の候補者以外の候補に投じられた票は、すべて死票になってしまう。

 これは、得票は4割でも、議席は7割を確保できるような制度であり、死票は多いが、政権交代の可能性は増す。

 対極にあるのが比例代表制で、死票はなくなるが、小党分立の傾向が強まり、政治が不安定になりがちである。多数の政党間で連立政権となることが多く、総選挙が終わってから政権が発足するのに数カ月かかる例もある。オランダやベルギーがその典型例である。

 オランダでは、7月2日に、元情報機関トップで官僚のディック・スホーフが首相に就任したが、昨年11月の下院総選挙から内閣発足まで7カ月を要している。

 選挙で第一党となったPVVだが、党首のウィルダースは、「オランダのトランプ」と呼ばれる人物であり、彼が首相になると、連立する相手がいなくなる。そこで、他党との妥協の産物として、国民のほとんどが知らないスホーフを首相に据えたのである。