- 英国の総選挙では、事前予想通り、中道左派の労働党が大勝した。2010年5月以来となる政権交代が実現する見通しだ。
- 保守党が惨敗したのは英国の有権者が所得増を実感できなかったため。それゆえに、政権を担う労働党は経済成長による実質所得増を実現する必要がある。
- 総選挙に向けて現実路線に回帰したスターマー党首だが、増税に基づく分配強化など、その政策は左派色が強い。果たして、労働党政権は持続的な成長を実現させることができるだろうか。
(土田 陽介:三菱UFJリサーチ&コンサルティング・副主任研究員)
7月4日、英国で2019年12月以来となる総選挙(庶民院、定数650議席)が行われた。事前予想通りに中道左派の労働党が大勝し、出口調査の段階で、議席を改選前の205から410前後に増やす予想となっている。
一方、リシ・スナク首相が率いる中道右派の保守党は大敗を喫し、2010年5月以来となる政権交代が実現する見通しとなった。
14年余りにわたって政権を担った保守党が大敗した要因には様々あるが、最大の理由は、英国の有権者が所得の増加を実感できなかったことにあると言えよう。
例えば、英国の給与水準(平均週給)は、保守党政権下の14年余りで、名目では5割以上も増加したが、物価変動の影響を除いた実質ベースでは1割も増加していない(図表1)。
【図表1 英国の給与水準(平均週給)】
2020年に入って実質賃金が増えたが、これは当時のボリス・ジョンソン政権がインフレを上回る最低賃金の引き上げを行ったためだと考えられる。ただ、コロナショック後の高インフレによって引き上げ分は吸収されてしまった。仮に国民が所得の増加を実感できたなら、保守党は今回の総選挙での大敗を免れたはずである。
次期の労働党政権に課された最大のミッションは、保守党政権で実感されなかった実質所得を増やすことにある。そのためにはまず経済成長を優先しなければならないが、戦後の二大政党制の下では、それは保守党の役割だった。
本来であれば所得分配を優先する労働党は、果たして経済成長を優先する役割まで担うことができるだろうか。