(文:上昌広)
先進国最低レベルの医師不足にある韓国で、医学部の定員増が打ち出されたことから研修医の9割が職場離脱、医学部教授3000人超が辞表を出す大混乱が発生した。エリート叩きで人気取りを狙った政権の思惑もあるようだが、多くの国民は医師の利権確保に冷めた目を向けている。この患者視点と国際感覚の欠落は、日本の医療界にも共通する問題だ。
韓国での研修医の集団ストライキが世界中で話題となっている。我が国のマスコミはもちろん、4月4日、米『ニューヨークタイムズ』紙も長文の解説記事を掲載した。なぜ、韓国でこんなことが起こったのだろうか。本稿では、その背景について解説したい。
10万人当たり医学部卒業生数はOECDで「下から3番目」
韓国と日本の医療状況は似ている。韓国の合計特殊出生率は0.78(2022年)で、日本の1.26(2022年)を下回る。高齢化率(65歳以上人口の割合)は17.5%(2023年)で、2030年には24%に達すると考えられている。日本の29.1%(2023年)ほどではないものの、高齢化の進行は深刻だ。
高齢化が進めば、医療需要は増加する。ところが、韓国の医師数は少ない。人口1000人あたりの医師数は2.6人(2022年)で、経済協力開発機構(OECD)加盟国の平均(3.7人)を大幅に下回る。トルコ(2.2人)、メキシコ(2.5人)、チリ(2.9人)、ポーランド(3.4人)と並ぶ医師不足国の一つだ。
少子高齢化により、地方都市は衰退する。大都市圏に人口が流入し、地方の過疎化が進む。韓国の人口は約5160万人だが、約960万人(約19%)がソウル市内に住んでいる。日本の人口に占める東京23区の人口の割合は約8%だから、韓国の一極集中は日本の比ではない。
医師偏在は深刻で、ソウルの人口1000人あたりの医師数は3.5人で、東京都とほぼ同レベルだ。一方、ソウル近郊の京畿道は1.8人と約半分だ。
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