医学部定員増に猛反発して大統領府前でシュプレヒコールを挙げる医師たち(2月15日、写真:AP/アフロ)

 韓国で、政府が医学部定員の増員を打ち出したことに対して研修医らが猛反発し、9000人近くが辞表を出し、医療現場が混乱に陥っている。

 尹錫悦(ユン・ソンニョル=1960年生)大統領は一歩も引かない姿勢で、総選挙直前の最大争点に急浮上してきた。

 韓国の大手病院で、若手を中心とした医師が辞表を出して職場を離れる例が続出している。手術や入院日程の調整など医療現場にも影響が出る深刻な事態に陥っている。

7000人以上が現場を離脱

 韓国メディアによると、2023年2月21日午前の時点で全国の病院で辞表を出した医師は9000人近くに達した。このうち7000人以上が実際に勤務先である病院を離脱したという。

 大手病院の中には手術や入院日程の見直しを迫られるなど患者にも影響が出始めている。

 いったい何が起きているのか?

 直接の発端は、2月6日に政府が、「医学部定員増員計画」を発表したことだ。2025年度から全国の大学医学部の定員を3058人から5058人に拡大する計画だ。

 韓国で医学部の定員を増やすのは27年ぶりだ。

 韓国でも医師不足は深刻だ。医師の長時間勤務は常態化している。特に、地方や小児科など一部分野の医師不足が顕著だ。

 ソウルや首都圏に医師が集中し、しかも眼科、皮膚科、整形外科など一部の分野を目指す医師が多く、小児科や胸部外科、産婦人科などの医師不足が深刻になっている。

 筆者の知人の医師はもうすぐ70歳だ。

 中堅規模の病院の小児科医だが、「毎日診察するのはきつくなってきて病院に週2日程度にしてほしいと言ったが、他の医師を確保できず結局いまもフルタイムで働いている」という。

 ソウルでも、風邪が流行する時期になると、子供を小児科病院で診察を受けさせるために早朝から病院で並んだという話をよく聞く。

 小児科病院が足りないから患者が殺到するのだ。