記者会見の様子から「90歳」とは全く感じられなかった。顔つやの良さ、はっきりとした声、まっすぐな姿勢・・・。
引退から5年で復帰した老経営者の再建にかける執念は実るのか。韓国の産業界、金融界の年初最大の関心事は「泰栄(テヨン)グループ」だ。
「欲をかきすぎたことが最大の理由だった」
2024年1月9日、ソウルの本社で記者会見を開いた尹世栄(ユン・セヨン)氏は自らが設立した企業グループが経営危機に陥ったことを率直に語った。
この日の会見での肩書は「創業会長」だった。
90歳と60歳の親子が会見
その隣で直立した姿勢で聞き入るのが長男、尹碩珉(ユン・ソクミン=1964年生)氏。グループ会長だ。
尹世栄氏は1933年5月生まれで満90歳。ソウル大学法学部を卒業したのが1961年という、もはや歴史上の人物といえる存在だったからだ。
長男も今年で60歳になる。韓国メディアは、90歳と60歳の親子が会見で頭を下げた模様を大きく報じた。
尹世栄氏が泰栄建設を設立したのが50年前の1973年。半世紀近く経営を引っ張り、2019年春に長男の尹碩珉氏にトップの座を譲っていた。
尹世栄氏はこれを機に経営にはほとんど関与しなかったという。
それが約5年ぶりに経営復帰となったのにはもちろん重大な理由があった。
母体企業である泰栄建設の資金繰りが苦しくなり、年末に返済期限がきた借入金の返済が難しくなったのだ。
創業オーナーは「引退」できないのか。
5年前に経営から離れた尹世栄氏。後を託した長男の経営を記者会見の場で「欲をかきすぎた」と言わざるを得なかった心中はどのようなものだったのか。