韓国の地方都市の医師不足を改善するには、医師の絶対数を増やすしかない。ところが、当面、改善されそうにない。それは韓国の医師養成数が少ないからだ。OECDの「Health at a Glance 2023」によれば、韓国の人口10万人当たりの医学部卒業生数は7.3人で、イスラエル(6.8人)と日本に次いで下から3番目だ。トップのラトビア(27.3人)の約26%に過ぎない。

 ちなみに、日本は7.2人で、下から2番目だ。高齢化率を考えれば、日本の方が事態は深刻だが、そのような議論は国内からは全く出ない。「医師は不足していない。偏在が問題である」という厚労省の見解を踏襲しているのだろうが、国際感覚からはかけ離れている。

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 財務省は4月16日に財政制度等審議会財政制度分科会に提出した資料の中で、医学部定員について、「大幅な削減が必要になる」と主張した。こうなると、最早、道化としかいいようがない。

日韓に共通する「既得権者の拒否権」

 話を韓国に戻そう。韓国は医師養成数を増やさねばならなかった。韓国の医師養成は、我が国同様、政府の統制下にあるが、政府は無策を続けてきた。医学部定員は1998年以来増員されていない。

 もちろん、政府も問題は認識していた。2022年5月までの文在寅(ムン・ジェイン)政権では、国立公共保健医療大学の新設が検討された。日本の厚労省にあたる保健福祉部が管轄する医師養成機関で、学費は無償だ。その代わり、医師偏在を是正するため、医師免許取得後は10年間、公務員として地方勤務が義務付けられる。

 この制度は、日本の自治医科大学や医学部地域枠と類似しており、参考にしたのだろう。医師不足・偏在が問題となれば、日韓ともやることは同じだ。ただ、この程度で、韓国の医師不足が改善されることはない。

 医療大学新設の議論は、コロナパンデミックが始まったことにより中断した。コロナ対応で手一杯で、大学新設どころではなかったのだろう。ところが、コロナ流行で韓国の医療は逼迫し、地方の医療過疎の深刻さが改めて浮き彫りとなった。

 このため、2023年度の大学入試から医学部定員を拡大する議論が始まり、現状の定員数(約3000人)から500人程度を増員することが議論されたが、強力な政治力を有する大韓医師協会などの医療関係団体との合意には至らず、医学部定員は据え置かれた。このあたりも、医学部定員増には必ず反対する日本医師会の対応と似ている。韓国の国民のことを考えれば、医師養成数は増やさねばならない。ところが、韓国では既得権者が拒否権を持つ。このあたりも日本とそっくりだ。

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