我が国で、医学部定員増が閣議決定されたのは2009年だ。この年、自民党の支持率は低迷し、総選挙で民主党に政権が交代する。当時、医療崩壊が国民的関心事項で、日本医師会の反発があったとしても、支持率アップのため、当時の麻生太郎政権には魅力的な政策に映ったのだろう。

 医師は社会的なエリートだ。多少、冷遇しても、国民から反発されることはない。特に韓国では、この傾向が顕著だ。2021年のOECDの統計によれば、韓国の医師の平均年収は19万2000ドル(購買力平価ベース)で、ドイツやオランダを抑えてトップだ。これこそが、研修医や大学教授が集団で反発しても、尹政権が医学部定員増を強行した理由だろう。

 最終的に、この問題は4月19日に、韓国政府が、国立大学総長らの建議を受け入れるという形で決着した。増員分を割り当てられた国立大学が、大学別増員分の50~100%の範囲内で自律的に2025年度の新入生を募集するというものだ。政府は、「医学部定員2000人増員」方針を事実上撤回した。今後、どの程度増員されるかは、世論次第だ。総選挙が終わり、ほとぼりが冷めれば、お茶を濁すだけではなかろうか。

患者視点と国際感覚の欠如は日本も同じ

 なぜ、韓国は迷走するのか。それは、一連の議論に患者視点と国際的な感覚がないからだ。患者の命を盾に、医学部定員増に反対するなど、医師としてあってはならないし、他国と比較した場合、韓国の医師不足は明らかだ。

 実は、この状況は、日本も全く同じだ。いや、医学部定員に関する対応では、日本の方が酷いだろう。

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