例えば米国は5月、グラクソ・スミスクラインやファイザーが開発した高齢者向けRSVワクチンを承認した。第三相臨床試験では、両者とも肺炎など重症合併症の発症を8割以上予防したという。米国政府は今冬、コロナ、インフルに加え、RSVワクチンの接種を呼び掛けている。
日本はどうだろうか。危機意識が低いと言わざるを得ない。9月、我が国もRSVワクチンを承認したが、今冬に集団接種を始める予定はない。
日本は世界で最も高齢化が進んでいる国だ。高齢化率約30%の国がパンデミックを経験したのは人類史上初だ。
コロナ禍の日本では、これまで世界が経験しなかった様々なことが起こった。その代表が、コロナによる死亡は少なかった一方、その約5倍の高齢者が老衰や誤嚥性肺炎などで死亡したことだ。この結果、日本は、コロナ禍で最も人口減少が進んだ先進国となった。この分析は、高齢化が進んだ国では感染対策だけでなく、高齢者の持病対策や健康増進対策が必要であることを意味する。
日本の超過死亡については、昨年3月、米ワシントン大学の研究チームが、国際比較の一環として英『ランセット』誌に発表した。発表同日に『ネイチャー』誌もニュースとして報じたが、国内のマスコミはどこも報じなかったし、厚労省や周囲の専門家も、この事実に触れなかった。なぜ、最も重要な科学的事実を彼らが無視しているのだろうか。
コロナパンデミックは収束を迎えつつある。どうやら、この間に様々な感染症に対する免疫が失われて、世界が正常化するために、様々な感染症が大流行しそうだ。世界史上、最も高齢化が進んだ日本は、どうすればこの問題を克服できるのだろうか。現在、中国で起こっていることは決して人ごとではない。我々は世界から学ばねばならない。
上昌広
(かみまさひろ) 特定非営利活動法人「医療ガバナンス研究所」理事長。 1968年生まれ、兵庫県出身。東京大学医学部医学科を卒業し、同大学大学院医学系研究科修了。東京都立駒込病院血液内科医員、虎の門病院血液科医員、国立がんセンター中央病院薬物療法部医員として造血器悪性腫瘍の臨床研究に従事し、2016年3月まで東京大学医科学研究所特任教授を務める。内科医(専門は血液・腫瘍内科学)。2005年10月より東京大学医科学研究所先端医療社会コミュニケーションシステムを主宰し、医療ガバナンスを研究している。医療関係者など約5万人が購読するメールマガジン「MRIC(医療ガバナンス学会)」の編集長も務め、積極的な情報発信を行っている。『復興は現場から動き出す 』(東洋経済新報社)、『日本の医療 崩壊を招いた構造と再生への提言 』(蕗書房 )、『日本の医療格差は9倍 医師不足の真実』(光文社新書)、『医療詐欺 「先端医療」と「新薬」は、まず疑うのが正しい』(講談社+α新書)、『病院は東京から破綻する 医師が「ゼロ」になる日 』(朝日新聞出版)など著書多数。
◎新潮社フォーサイトの関連記事
・米共和党ニッキー・ヘイリー氏が「トランプ打倒」を実現できる唯一のシナリオ
・メジャーで活躍する日本人選手と活躍しない「灘→東大理3」を人材育成論で考える
・「サイバーセキュリティ」から「サイバー安全保障」へ――日本は能動的サイバー防御をどう定義するか