生産者と消費者を結ぶ「食の熱中小学校」(1)

猟師の中村麻矢さん。手に持っているのは害獣駆除に使うワナ(撮影は地域おこし協力隊の神部葵さん)

 8月10日午前7時、朝シャワーを浴びたばかりだった中村麻矢さんの携帯が鳴った。

「まやちゃんかい。ヒグマが獲れたよ。解体をお願いしてもいいかなぁ」

 猟師仲間からの連絡だった。

「分かりました。すぐ行きます。場所はえぇっと・・・」

 北海道での狩猟について知りたいという東京からのお客さんの世話もあって、大変忙しくしていた中村さんだったが、二つ返事で引き受けた。

 すぐにクルマを回し、手際よくヒグマの皮を剥ぐ。皮はレザーにお肉は料理に。獲れた命をできるだけムダにしたくない。

今日は日曜日だったのか・・・

 解体が一通り終わるともう昼近くになっていた。9月に入ったとはいえ昼間は30度前後まで気温が上がるなかで体は汗びっしょり。

 朝シャワーは何のためだったんだろうと思いながら、中村さんは急いでゲストたちが待つ広尾町の菊地ファームに向かった。

 広尾町は北海道の十勝地方南部にあり、南には日高山脈が走り、東は太平洋に面した人口6000人強の農業や酪農、漁業、林業が主な産業の町だ。

 十勝を代表する都市、帯広からクルマで1時間強。路線バスだと約3時間かかる。

 中村麻矢さんが向かった菊地ファームは、オーナーの菊地亜希さんが広尾町の良さを情報発信している「ピロロ推進協議会(ピロロ)」の代表で、中村さんのお姉さん的存在だ。

 ピロロ推進協議会は、広尾町と熱中小学校*1が共催している地域活性化を目指す取り組み。ちなみにピロロとは、広尾町の名前の由来とも言われているアイヌ語のピロロ(陰のところ)という意味だという。

*1=熱中小学校は、廃校となった校舎などを利用して都会から講師招聘したその道のプロによる講義や交流会を通じて、大人が今一度小学生の視点で学び直し、地域活性化につなげようというプロジェクト。これまでJBpressでも何度か取り上げてきた。

 菊地ファームで会った中村さんに「休みの日なのに朝から大変な仕事でしたね」と言うと、中村さんは首をやや傾げて「何を聞くんだこいつは」という表情。

「あぁぁ、そうだったんだ。今日は日曜日だったんですね。完全に忘れてました」

 懸念が解けたのか、晴れやかな笑顔を返してきた。

「1年365日、働いていますけど、そんなことどうでもいい。仕事、いや、ここで生活していることすべてが楽しいんです」と、その笑顔には書いてあった。

 人生が最も輝いている時期はわき目もふらずまっしぐら、忙しくて辛いなどと考えている暇もない。何かをなす人には必ず訪れる大切な時が今なのかもしれない。