牛乳の高付加価値化やブランド化を目指そうにも、1リットル当たり決まった価格で引き取られるので、簡単ではない。

 そうした中で菊地さんは、酪農家を目指した時の初心を思い出した。

「そうだ、私は酪農を多くの人に知ってもらい、触れてもらい、身近に感じてもらいたかったんだ」

 酪農の6次産業化を目指す瞬間だった。

酪農の6次産業化こそ生きる道

 生産した牛乳の一部を自ら加工して販売できれば、頭の中にあるアイデアをいくつも具体化できる。もちろん失敗はつきものだが、失敗を糧としてさらなる挑戦につなげるのが改革者というものだ。

 2018年に牛乳の加工設備と作った製品を販売するカフェを立ち上げた。カフェでは自分自身で飲みたいと思う牛乳を販売し、アイスクリームやジェラート、肉料理も提供している。

菊地亜希さんと菊地ファームのアイスクリーム(亀井秀樹・食の熱中小学校事務局長撮影)

「始めて5年、まだ手探りの状態ですが、私たちの未来はこちら(6次産業化)の方にあると確信しました。いずれは大都市へも出店したい」

 菊地さんはこう話す。では、6次産業化をどう成功に導くか。

 そのカギを握るのは情報とネットワークである。お客のニーズを的確に汲み取り、製品開発につなげる必要があるからだ。

 2021年、菊地さんは広尾町で活躍する人たちの情報を発信するピロロを設立した。酪農だけでなく、農業や漁業、林業、そしてサーフィンなどのスポーツまで取り上げる。

 冒頭に紹介した「鹿女まやもん」こと中村麻矢さんも大事なメンバーの一人である。

 ピロロのメンバーは定期的に集まり、意見交換したり食事会を開いたり、様々なイベントを企画したりして、今や広尾町に移住した人たちにとって欠かせない存在となっている。

 広尾町も物心両面で支援している。広尾町水産商工観光課の山田雅樹課長補佐は言う。

「彼らが積極的に活動してくれるから広尾町に移住したいという人が増え、企画するイベントも盛り上がっています。熱心な活動に頭が上がりません」

 9月8日から、食の熱中小学校(詳細は後述)とピロロが共同企画したイベントが開催された

 首都圏から十勝や広尾町が生産する「食」に関心のある人が集まり、昆布漁の見学や中村麻矢さんによる鹿の解体実演と実習、林業体験、酪農体験などを通じて、生産者と消費者の距離を縮めようという企画だ。