これが昆布漁の概要だが、大変な重労働である。しかし、その割に見返りは少ないと保志さんは言う。

「作業時間当たりの収益を計算すると、どんなに一生懸命働いてもコンビニエンスストアのアルバイト店員なみの給料が精一杯」

「これでは漁師をやろうというモチベーションが上がりませんよね」

「雨の日なんかは、浜に大量の昆布が打ち上げられてくるので、漁をすれば比較的楽に収穫量を確保できるんです」

「でも、雨の日は昆布浜で天日干しができないので、回収した昆布の束に浮きをつけて港の中に浮かし、後日、晴天時に一気に天日干しをしなければならない」

「そこまで手間をかけても時給1000円もいかないなら、雨なんだから面倒くさい、やめとこう思うのは仕方ないんじゃないかなぁ」

目の前にある昆布を取らなくていいのか!

 しかし、資源が枯渇しているならともかく、目の前に大量の昆布があるのに漁をしないというのは何とももったいない。何とかならないものか。

 漁師の収入は働く時間に比例する。雨の日に休めばその分の収入はなし。そこで保志さんが考えたのが、灯油を使った乾燥施設の導入だった。

 設備投資にいくら、運転費用にいくら、補助金がいくら、減価償却がいくら・・・と綿密に計算し、保志家の長である父親に提案した。

「お前がそこまで言うなら」と了解を取り付けたら、自分たちが所有する昆布浜の隣にすぐに建設にかかった。

 結果は大幅な収量アップにつながったのだが、それでも限界はある。どんなに働いても1年365日を超えては働けない。

 商品の付加価値を上げるか、商品にならない昆布のロスを減らすか――。

 乾燥施設のおかげで今まで以上の昆布が扱えるようになり、実はその分だけ商品にならない昆布も増えた。乾燥や切断の過程で割れてしまう屑昆布だ。

 普通の人なら「これくらいのロスは仕方ない」と思うに違いない。しかし、保志さんの目には磨く前のダイヤモンド鉱石に見えたようだ。