漁師の醍醐味には、稼げるときには一気に稼いで、大きなお金を手にしたら遊びまくるというのもあるだろう。人生は一回切りだし、それはそれで楽しい人生だ。

 しかし、保志さんは稼いだお金をどう生かすかに頭をフル回転させた。今使って消費してしまうより、何にどう投資して何を生み出すか。

 従来の漁師というイメージとはかなりかけ離れた考え方を持つ。

 実際、雄弁な語り口から、きめ細かいお金の投資方法とそれによるリターン、投資効率などの語彙がポンポン飛び出す。

 漁師の話というよりは、経営学者か経営コンサルタントの話を聞いているようだ。栴檀は双葉より芳し。漁師の家に生まれた根っからの経営者なのかもしれない。

星屑昆布で漁師の生産性を格段に高めた保志弘一さん(筆者撮影、保志さんの昆布浜で)

 その保志さんが今最も力を入れている製品がある。昆布を約1.5ミリ角に砕いた「星屑昆布」である。

 ご飯やスパゲッティの上にかけて旨味を引き立てるふりかけとして、または短時間に出汁をとる「出汁の素」として、調理時間を節約したい主婦の間で静かな人気が出始めた製品だ。

 星屑昆布が誕生するにはやや長いストーリーがある。

 広尾町で昆布漁ができるのは3か月間。主に船で沖合に出て漁をするが、天候などによって実際に漁ができるのはわずか10日あまりしかないという。

 船による漁ができない日には、浜辺に打ち上げられた昆布を回収するか、ロープのついた鉤を思いっきり遠くへ投げて海底に沈め、潮の流れを感じながらゆっくりと引っ張って、波で抜けて海中を漂っている昆布を引き寄せ浜に上げる。

 浜に上げた昆布は一度に持ち運べるだけの量をまとめて縄で括る。

 そうして、日高山脈の豊かな水源から流れ落ちる清流で汚れを洗い流し、トラックに積み込んで、「昆布浜」と呼ばれる場所に運ぶ。

 昆布浜は川砂利と海砂利を適度に混ぜて敷き詰めた人工の浜で、ここに昆布を広げて天日で乾かす。色と艶を見て昆布を選別してまとめ、必要な大きさに切って出荷する。